プロローグ 復讐のはじまり
海底一万メートル。
「深海基地アルゴス」は、漆黒の深淵にそびえる鋼鉄の要塞だった。
厚い強化ガラス越しに覗くのは、光の一切を拒んだ暗黒の海。沈黙の中で響くのは、金属の軋みと循環機械の低い唸りだけ。
人間の領域ではないこの深海にこそ、ゼフィルの新たな帝国が築かれつつあった。
巨大なホログラムに映し出された世界地図。
点滅する赤い光が、ニューヨーク、ベルリン、東京、そして中東やアフリカの戦略拠点を示していた。
ゼフィルはその前に立ち、指先でゆっくりと軌跡をなぞる。
「……レッドウルフは再び牙を剥く。
その旗の下に、世界は新しい秩序を迎えるのだ」
銀白の髪をかき上げ、彼は静かに笑う。
敗北の屈辱、失われた仲間たち、アイゼンハワードの冷徹な銃口。
すべての記憶が、ゼフィルを突き動かしていた。
その背後に、3つの影が立つ。
艶やかな黒髪を揺らしながら、アリシアがゼフィルを見つめる。
かつてアイゼンに利用され、仲間を失った女スパイ。その瞳には燃えるような復讐の炎が宿っていた。
「アイゼン……あの男だけは許せない。私の人生を狂わせた罪、必ず償わせる」
白衣の襟を正しながら、Dr.ノアが低く笑う。
元は国際研究機関の科学者。だがアイゼンの作戦に巻き込まれ、全てを失った彼は、今や禁断の兵器を開発する狂気の科学者となっていた。
「科学は正義の道具じゃない……俺が証明してやるさ。アイゼンの命で」
そして、最後に立つのは九条イサム。
日本の元エージェント。任務の中でアイゼンと対立し、仲間を撃たれ、組織から追放された男だ。
鋭い瞳は氷の刃のように冷たく光っている。
「アイゼンハワード……あんたの正義はただの独善だ。次に会う時は、必ず俺がその喉元を掻き切る」
ゼフィルはゆっくりと振り返り、彼らを見渡した。
憎悪と復讐心に突き動かされた者たちが集い、アルゴスに新たな軍団を築き上げていく。
「我らの共通の敵は一人だ……アイゼンハワード」
その名を吐き捨てるように言うと、深海基地全体が低く震えた。
深淵の闇は、彼らの怨念を飲み込み、次なる嵐の胎動となる。
彼らの復讐の幕は、今まさに上がろうとしていた。




