第十一話 魔竜の黒炎の裁き
屍の神殿の天蓋を突き破り、魔竜は咆哮をあげながら宙を舞った。
黒焔が風を裂き、大地を焼き、空気すら重く圧し潰す。
「我が主よ! その力、我に示せ……! 世界に恐怖を! 絶望を!」
闇の司祭カザールはその巨体の足元に立ち、崇拝の声を上げる。
だが――
魔竜は一瞥すらせず、ただ空を仰いでいた。
「……ッ!? 聞こえぬか、我が声が!」
無視され、カザールの顔が歪む。
「私は貴様を復活させた者だぞッ!!」
だが次の瞬間、魔竜の金色の眼が、わずかに下を向いた。
ゴゴゴゴゴ……
「なっ……まさか――」
魔竜の爪が地を掴み、巨大な黒き脚がカザールの頭上に迫る。
「や、やめろ……我が力で復活した貴様が……グォァアアアアア――!!!」
ズン――!!
屍の神殿の床に、大量の血のしぶきが散った。
闇の司祭カザールは、魔竜に“踏み潰された”。
かつての支配者は、目覚めた絶対的な“破壊”の前に、あまりにも無力だった。
「……あれが……伝説の魔竜か……」
アル隊長は呆然と呟いた。
魔竜が天空に向かって咆哮する。
「──グォオオオオォォオオオオ!!!!」
その口が開かれ、空間が捩れた。
闇魔法の最大の必殺魔法 奈落終焉陣
世界の存在そのものを“終わらせる”究極の魔法。
天空の色が反転し、空が黒く、雲が紫に染まりはじめる。
「なに、あれ……ッ!?」「で、でも、止めないと……ッ!!」
そのとき――
「フラちゃん、いけるか!?」
「──できたよ!」
看護師フラちゃんは、手に一本の注射器を握っていた。
「魔竜の心臓……一時的に止める“毒薬弾”。やっと完成したんだ!」
「さっちゃん、発射の用意お願い!」
魔導飛行艇の艦内、さっちゃんが魔導炉に両手を乗せる。
「限界超えてやるよ……!」
魔導炉のコアが脈動をはじめる。
「リミッター解除! 魔力制限をすべてカット――」
「魔導出力、限界突破──『Ωドライブ』発動!!」
船体が蒼白く輝き、咆哮する魔竜の轟音すらかき消すほどの震動が神殿を包む!
「フラちゃん、撃てぇぇぇぇぇッ!!」
「注射爆弾 発射ァッ!!イイヨ~!」
ドシュッッ!!
青白い閃光が魔竜の胸元を貫いた――
ビリィィイイイイイイ――!!!
魔竜の体が痙攣する。
巨大な心臓の脈動が、一瞬だけ止まった――!
魔法陣が乱れ、奈落終焉陣が中断される。
「今がチャンスだよ!! エリック、カンナ!!」
「おうっ!!」
「全力で叩き込む!!」
戦士と姫が、叫びながら瓦礫の山から跳び上がる。
手斧とグラン=ツァンハンマーが、一筋の希望の光となって、魔竜に向かって一直線に走って向っていた!