第十話 魔竜と飛行艇の戦士たち
神殿の最奥――
魔術陣が光を放ち、宙に浮かぶ黒き竜が身を震わせた。
魔竜が復活をした。
地響きと共に響き渡るのは、世界そのものを拒絶するような咆哮。
「グオオオオオ……オオオオオォォ……!!」
その全身は、黒鉛のような鱗に包まれ、眼は虚無の炎を宿している。
魔竜。
かつて神と争い、封印された最凶の存在が、ついに完全復活した。
その傍らに立つのは、闇のローブを纏った一人の男。
闇の司祭カザール。
「ついに……ついにこの時が来た……! 千年の時を経て、再びこの地上を暗黒の黒焔で染め上げるのだ!」
その顔に、エリックやカンナの姿を見とめた瞬間、彼は眉をひそめた。
「……貴様らは、誰だ?」
エリックが前に出る。
「戦士と戦士だ……だが、お前を止めに来た!」
「人間風情が、我が主の咆哮に触れたとて、灰になるのが関の山だ。消えろ」
その言葉を終えるより早く、魔竜の咆哮が響いた。
──ギャアアアアアアアアオオオオオオッッッ!!
空間が揺れ、神殿の壁が砕けた。
エリックが手斧を構え、カンナ姫が巨大ハンマー《グラン=ツァンハンマー》を構える。
「いくぞ、カンナ!!」
「……こんなヤツ、ぶっ壊すまでよ!」
二人は同時に跳躍し、魔竜の顔面へと武器を叩きつける。
しかし──
バキィィン!!
まるで大岩に枝を叩きつけたかのように、全ての攻撃が弾かれた。
「な……っ!?」
次の瞬間、魔竜の尾が大地を薙ぎ払う。
「ぐあああああっ!!」
「キャアアッ!!」
二人とも吹き飛ばされ、床に転がる。
黒い咆哮、真紅の炎、灼熱の波動が辺りを焼き尽くす中。
「お前たちは退けッ!!」
上空から降り立った銀の翼の魔導飛行艇、その甲板から跳び下りたのは、
「貴様は……!」
「魔界のアイドル六剣・最後の一人……『イケメンV6』と呼ばれた男 アイゼンハワードだ。覚えていないか、カザールよ!」
「ふん……貴様だけは記憶している。だが、貴様の輝しい時代はもう終わった。」
「終わってなどいない。俺たちの“意志”はまだ、誰かの胸に残っている……!」
アイゼンハワード(アル隊長)の手には、魔剣《レイ=ブラッド》。
闇なる銀光が、魔竜の目を眩ませる
「封じられし者よ……その業火、もう一度、封の檻へ返れぇぇぇッ!!」
一直線に飛び込み、剣を振り下ろす!
しかし──
ゴガガッ……!
剣は魔竜の左腕の鱗に弾かれ、アルは跳ね返された。
「ッ……!!」
「アル隊長ぉぉッ!!」
エリックが手斧を握りしめ、ボロボロの体で再び立ち上がる。
「くそ……まだだ……まだ終わってねぇ!」
「カンナ、行けるか……!」
「立てる……よ。絶対に、倒すんだから……!」
魔竜の咆哮が再び響く。
それでも、エリック、カンナ姫、そしてアイゼンハワードは、なお魔竜へと立ち向かおうとしていた。
魔族と人間の希望を、まだ捨ててはいなかった。