第2話 地下潜入戦
ロシア・極北の町、雪に閉ざされた廃工場の地下。
外見は朽ちた倉庫にしか見えないが、内部には秘密警察隊の研究施設が隠されているという情報が、MI6とウクライナ側の協力ルートを通じてもたらされていた。
氷柱の垂れ下がる暗がりに、アイゼンハワードの赤い瞳がかすかに光る。
隣を歩くのはセリーヌ。銃を握りしめる彼女の呼吸は冷気で白く染まる。背後ではジャスパーが携帯端末を操作しながら、小声で囁いた。
「赤外線センサーが三基。……ええと、あー、クソ、これはソ連時代からある“マトリョーシカ式”監視システムだな。解除に十秒欲しい」
「十秒もあれば十分だ」
アイゼンは口角を上げ、優雅にマントを翻した。
その瞬間、金属の音が響き、床下から機械式の罠がせり上がる。鋼のスパイクが通路を塞ぎ、監視カメラのレンズが一斉に光った。
「ッ、見つかったか!」セリーヌが叫ぶ。
迷宮のような通路を抜け、冷気の中を駆け抜けるアイゼンたち。
壁には無数の監視カメラ、足元には感圧式の罠が仕込まれていた。
カテリーナが前に出て、床に小型のデバイスを滑らせる。
「停止。三秒。」
カチリと音がして、光のパターンが床を走る。感圧スイッチの位置が赤い線となって浮かび上がった。
「よし、通れる。」
セリーヌは息を飲み、緑の瞳で先を見据える。
やがて、厚い鉄扉にたどり着いた。
中央には赤い狼のエンブレム
新興組織「レッドウルフ」の紋章が刻まれていた。
「やはり奴らの仕業か。」
アイゼンの声は低く沈む。
ジャスパーが端末を差し込み、指を踊らせる。
「……よし、開いたぞ。」
扉が重く開くと、部屋の奥には分厚い金属ケースが鎮座していた。周囲には紙とフィルムが山積みされ、古いロシア語で「兵器実験計画」「超常能力者監視」と書かれている。
カテリーナが素早くファイルをめくり、青ざめた表情を見せた。
「これ……まさか。旧ソ連の核の残滓を利用した新兵器計画よ。」
セリーヌが震える声で問いかける。
「じゃあ、この施設はただの監視拠点じゃない……?」
アイゼンは冷静に文書を手に取った。
そこには、血のように赤いインクで一行だけ書かれていた。
《ZEPHYR》
「……ゼフィル。」
アイゼンの赤い瞳が細められる。
死んだはずの弟子。カジノ・ロワイヤルで命を落としたと思われていた男の名が、再び現れる。
「師よ……俺はまだ終わっていない……」
残響のように、過去の声が耳の奥に響いた。
突如、部屋の照明が落ち、警報が鳴り響く。
赤いランプが点滅し、扉が自動で閉じていく。
「チッ、やられたか!」ジャスパーが叫ぶ。
スピーカーから、低く冷たい声が流れた。
『ようこそ、師よ。ここから先は、俺の領域だ』
ゼフィルの声。確かに、そこにいた。
アイゼンは静かにケースを閉じ、銃を構える。
「いいだろう、ゼフィル。貴様が死を逃れていたのなら……今度こそ、決着をつける。」
吹雪のような警報音の中、闇に潜む弟子の影と、再戦の予兆が深く刻まれた。




