第九話 雷霆と決意
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名前:ヴォルグ(戦士)
レベル:60
体力:2000
攻撃:920
防御:750
素早さ:295
魔力:25
賢さ:300
運:90
この世界で、妻と娘を殺されたために魔王軍に入った復讐の戦士
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雷帝が、神殿の空間ごと焼き尽くす。
「貴様らごときが……この俺を止められると思うなアアアアアッ!!」
怒りと絶望を宿した咆哮が空間を揺らし、ヴァルグの纏う雷光が更に激しさを増した。
その愛剣が一閃されるたび、
世界そのものが裂けるような雷鳴が轟く。
「グァッ……!」
エリックが防御した手斧ごと吹き飛ばされ、
石壁に叩きつけられる。
身体が焦げ、筋肉が焼かれ、呼吸すら困難になる。
「エリック!!」
カンナ姫がすぐに《グラン=ツァンハンマー》を振り上げて間に入る。
が、ヴァルグはすでに次の一撃を放っていた。
「小娘がアアアッ!!」
ズドン!!
雷と雷がぶつかり合い、カンナの体が地を滑る。
唇が裂け、血が滴る。
だが彼女は、立ち上がる。
「まだまだ……雷、足りないわよ……!」
「なぜだ……なぜ貴様らは……そこまでして戦う!?
お前たち人間は、俺の家族を、俺の心を、踏みにじった……!」
ヴァルグの咆哮が、悲鳴のようだった。
「妻と娘を、裏切り者の家族だと罵られ……!
吊された木から、二人の小さな体がぶら下がっていたんだぞォオオ!!」
雷剣を突き立て、空間ごと雷で引き裂く。
「だから俺は決めた……もう、誰も信じない。誰も救わない。
俺はこのまま闘いの中で死ぬ……!闘いの中でしか、俺の魂は救われない!!」
「……なら、その願い、戦って終わらせてやる!!」
エリックが立ち上がった。
焦げた体から蒸気が立ちのぼり、それでも瞳だけは燃えていた。
「……!立つのね……」
「俺には、守りたい奴がいる。背負うものがある。だったら、ここで折れられねぇ!」
手斧を片手に、グラン=ツァンハンマーの柄をカンナと一緒に握る。
「カンナ、俺に力を貸してくれ!」
「言われなくても!!貸すわよ!いっけぇえええええええッッッ!!!」
二人の武器が、雷の中を裂いて突き進む。
ヴァルグのサンダーソードが雷鳴と共に唸るが、
カンナが正面から衝撃を受け止め――
「今よエリックッ!!」
エリックが渾身の一撃を、ヴァルグの胸元へ――!!
「ぐっ、ああああああああッ!!!」
雷光が弾け、神殿が崩壊しかける中、
ヴァルグの身体がついに崩れ落ちた。
血が、静かに滴る。
それでも、ヴァルグの顔は、安らかだった。
「……俺は、ずっと……誰かに、止めてほしかったのかもしれんな……」
カンナが近づこうとするが、彼は手で制した。
「もう……いい。お前たちは進め……。未来を……希望を……つなぐんだな……」
最後に小さく笑い、
雷の戦士ヴァルグは、雷光の中にその姿を消した。
静寂が、神殿に訪れる。
カンナはそっと呟く。
「ヴァルグさん……雷に焼かれてなお、ずっと人を信じたかったんだね……」
「だから、俺たちは絶対に……終わらせる。
魔竜の復活も、人の悲しみの連鎖も……!」
ゴロゴロ ピカッーーー ドッォオオオ~ン
二人の背に、再び雷が落ちて鳴る。
それは、去った戦士が託した、最後の希望の光と音だった。