第八話 復讐の雷の戦士
屍の神殿。その瘴気に満ちた回廊を、戦士エリックとカンナ姫は駆け抜けていた。
魔竜復活の兆しを感じ取り、迷っている時間はもうない。そんな時
――ズドォンッ!!
天井を突き破る雷光とともに、一人の男が降り立った。
「……! こ、これは……雷の魔力!?」
銀髪を逆立て、全身を雷のオーラで包んだ一人の戦士。
右手に握るは愛剣の《サンダーソード》。
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名前:ヴォルグ(戦士)
レベル:60
体力:2000
攻撃:920
防御:750
素早さ:295
魔力:25
賢さ:300
運:90
この世界で、妻と娘を殺されたために魔王軍に入った復讐の戦士
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「ヴァルグ……?! あんた、ヴァルグさんですよね!? バルドル父ちゃんから聞いてます!」
鋭い眼差しを向けたヴァルグが、エリックを見下ろす。
「お前たちは、バルドルの……子供か?」
カンナが一歩前に出る。
「……あたしは、こいつの……戦友よ」
「彼女は俺の、大事な人です」
「うえぇええ!? ちょっとちょっと何言っちゃってんのよ!? やだぁ〜! 恥ずかしい! よくそんなセリフ言えるわねぇ!?」
「……大事な“戦友”って意味っす」
「…………」
苦笑する空気も束の間、ヴァルグの顔が一変する。
「母ちゃんの昔の恋人を倒したと思ったら、今度は義理の父ちゃんの因縁の相手ですか……因果すぎる……」
エリックの言葉に、ヴァルグの顔がわずかに歪む。
「バルドルの……子か。は、皮肉なもんだな」
「俺たち、魔竜を倒そうとしてるだけで、敵じゃないんじゃないですか?」
「……お前は、バルドルが何をしたか知っているか?」
神殿の空気が、急激に冷たく、重くなる。雷鳴が静かに空間を包む。
「かつて俺たちは英雄だった。
西のバルドル、東のヴァルグ──人々の希望として、肩を並べて戦った」
「なのに、奴は突然、魔王軍へと寝返った」
「俺は信じられなかった。だから……信じようとした。
きっと何か理由があるはずだって……でも、待っていたのは、裏切りの現実だった」
ヴァルグは拳を握りしめ、血がにじむほど力を込めた。
「裏切ったのはバルドルだけじゃない。……人間たちもだ」
「バルドルと“共に戦っていた”という理由で、
俺の妻と娘は、“裏切り者の家族”として、村の連中に石を投げられ、火をかけられ、嬲り殺された」
「人間は弱い。愚かで、醜い。自分が生き延びるためなら、かつての英雄すら切り捨てる。
平和だ? 共存だ? ……笑わせるな。そんなものは、都合のいい幻想だ!!」
「俺は、すべての人間を許さない。裏切り、怯え、他人を犠牲にするこの愚劣な種族を、滅ぼす」
「そのために、俺は《闇の司祭カザール》を復活させた。そして……魔竜をこの世に再び呼び戻す」
エリックは唇を噛む。
「……それでも俺は……そんなやり方、間違ってると思う」
「くだらねぇ正義を振りかざすな!!」
ズドン!!
足元を砕いて雷が爆ぜる! 空気が裂け、壁が焦げ、神殿の天井から崩れた瓦礫が降り注ぐ!
「俺がどれほどの絶望を味わったか……!
泣き叫ぶ妻の声を、燃える家の中で聞いたあの時の苦しみが貴様にわかるか!?」
「娘の小さな指が、炎の中で俺を求めて伸ばされていた。……助けられなかった。
なぜかって? 町の連中が、俺を門の外に縛り付けていたからだ。
『裏切り者の身内は、出て行け』とな……」
「俺はもう、信じない。希望も、友情も、未来も。
俺が信じるのは、“復讐”ただ一つ雷の裁きで人間どもを焼き尽くす、それだけだ!!」
雷の戦士ヴァルグがエリックとカンナ姫に愛剣 サンダーソードを振りかざして襲い掛かってきた。