第6話 裏切りの罠
東京での戦闘後、特殊異能チームはかろうじて帰還した。
だが待ち受けていたのは、アリシアの置き土産として界因子の暴走と、MI6本部からの冷たい視線だった。
ロンドン、MI6本部。
重厚な会議室に、各国の情報機関代表が集められていた。
中央に立たされているのはクロエ・ルノワール。
「あなたの端末から、アリシアに関する機密が流出していた。」
冷ややかな声が響く。
クロエは腕を組み、切れ長の瞳で真っ直ぐに返す。
「私のパスコードではない。改竄だ。」
だが場の空気は彼女に不利だった。
セリーヌも、アイゼンも黙したまま、疑念が空気を支配する。
やがて議長が告げた。
「クロエ・ルノワール、あなたは一時的に任務から外れる。潔白が証明されるまで。」
クロエは一瞬だけ仲間たちを見やり、無言で退室した。
その背中には冷静さと、深い孤独が同居していた。
同じ頃。暗い研究施設のスクリーンに、ひとりの男の姿が映し出される。
ドクター・マクシミリアン。
国際企業「ネオ・クロノス社」の幹部にして、アリシアの背後で資金と技術を供給してきた黒幕。
白髪をきっちりと撫でつけ、頬は痩せこけ、鋭角的な顔立ち。
深い皺が刻まれた額と氷のような灰色の瞳は、感情を一切映さない。
白衣の下には防弾繊維のスーツを纏い、指先には黒曜石のような義手。
それが冷たく光を放っていた。
「人類の文明は限界にある。次に必要なのは“秩序ある淘汰”だ。」
淡々とした声がスピーカーを通じて響く。
「アリシアはその道具にすぎない。我々が描く新世界の最初の石だ。」
彼の背後に並んでいたのは、異形の兵士たち。
アリシア クローンの親衛隊。
異界因子を移植され、人間を超えた能力を持つ忠実な戦士たち。
その眼には光がなく、ただ主への絶対的な忠誠だけが宿っていた。
MI6の臨時拠点。
ジャスパーが深夜にコード解析を終え、証拠の改竄を突き止めた。
「やっぱりクロエじゃない……“仕掛けた”のは外部の工作だ。」
セリーヌが拳を握る。
「……でも、彼女はもういない。」
アイゼンは窓の外の雨を見つめながら、低く言った。
「クロエは切り捨てられた。だが彼女は戻る。必ず、真実を携えて。」
その時、スクリーンにドクター・マクシミリアンの声明が割り込んだ。
「諸君、世界はもう選べぬ。旧き秩序を守るか、それとも我らの新しき秩序に従うか。いずれにせよ、オメガ・スフィアの完成は止められぬ。」
彼の言葉と同時に、世界各地で異界ゲート暴走の報告が相次いだ。
世界はもはや、分裂と崩壊の淵に立たされていた。




