第3話 砂漠の要塞
アジア中央部、砂漠のただ中。月明かりに照らされた砂丘の先に、旧ソ連の軍事要塞が黒いシルエットを浮かび上がらせていた。廃墟の外観の裏には、アリシアが築き上げた最新鋭の防衛網が潜んでいる。
砂嵐の中を進むMI6チーム。その先頭に、一人の女性の姿があった。
クロエ・ルノワール。DGSEの特殊任務部門に所属するフランスの諜報員。MI6とのリエゾンとして派遣され、冷徹な眼差しで要塞を見据える。
「センサーの配置は予想以上に緻密ね。赤外線に加え、地雷探知システムも生きているわ。」
彼女の腕時計型デバイスが淡い光を放ち、要塞のセキュリティ状況を立体的に投影した。
MI6チームは砂嵐を縫うように接近する。暗視ゴーグルを装着し、無線が短く交わされる。
「センサー密集地帯だな。赤外線とドローンがうようよしてる。」
ジャスパーがタブレットを睨みながら低くつぶやく。
その時、砂丘の影から一人の男が現れた。
分厚いジャケットに重火器を背負い、口元には煙草。鋭い目つきでチームを見渡す。
「遅いぞ、MI6。俺を待たせるな。」
レオン・ガルシア元傭兵。銃火器を手にしている時が一番落ち着くという危険な男だった。
「また厄介なのが増えたわね。」
セリーヌが皮肉を言うと、レオンは笑いながらマガジンを叩き込む。
「お嬢ちゃん、口より弾丸の方が説得力あるぜ。フランス製のおもちゃで何とかなるのか?」
背後でレオン・ガルシアが低く笑い、重火器を肩に担ぐ。
クロエは振り返らず、冷ややかに答える。
「必要なのは“火力”じゃなく、“精度”。あなたのやり方は、騒がしすぎる。」
セリーヌが苦笑しながら小声でつぶやく。
「同感ね。大砲みたいな男より、静かな方が頼りになるわ。」
「おい!」と反発するレオン。
だがアイゼンの冷静な声が空気を切った。
「口論は後にしろ。潜入開始だ。」
潜入開始。
ジャスパーが信号をジャミングし、監視ドローンの目を奪う。クロエは無駄のない動作で壁面をよじ登り、セリーヌが続く。レオンは銃口を振るい、カメラを正確に撃ち抜いて通路を開く。
要塞内部は、まるで生き物のように彼らを拒絶していた。古びたコンクリートの通路に、赤外線センサーの網が光り、奥からは無人タレットの唸りが響く。
「3秒だけ無効化できるわ。撃ち漏らしたら、即死よ。」
クロエが冷徹に告げると同時に、セリーヌがライフルを構え、レオンが重機関銃を唸らせる。
火花と銃声が混じる中、クロエは精密なコードを走らせ、タレットの目を奪った。
だが、安堵は長く続かない。奥からアリシアの声が響く。
「MI6もDGSEも、仲良く砂漠に沈みなさい――」
床が崩れ、炎と爆風が廊下を呑み込んだ。咄嗟にクロエが障壁展開装置を起動、衝撃波を一瞬だけ抑える。その隙にアイゼンの魔族の力がチームを包み込み、辛くも脱出路へと飛び込んだ。
砂丘の影に身を潜め、荒い息を整える一行。
「上等だ……」レオンが煙草をくわえ、砂漠を睨みつけた。
「あの女、必ず俺がぶっ飛ばしてやる。」
「あなたが先に死ななければ、ね。」クロエが冷ややかに返す。
セリーヌが肩をすくめる。
「まぁ、派手なのは嫌いじゃないけど。」
砂漠の星空の下、砂塵にまみれたチームのシルエットが浮かぶ。
敗北感を滲ませながらも、誰も諦めてはいなかった。
アリシアの影、次の舞台を用意する者の気配が、夜風に揺れていた。




