第五話 闇の司祭と超重魔導砲
魔導飛行船《アストラ=バルムガンド》補給都市は、を越え、死の空域《黙示の谷》へと突入していた。
そこは空が腐り、風が止まり、空間すら軋む、時の狭間のような領域
正面には分厚い霧。その中から、聞こえてくる不気味な声と鈍い鐘の音。
「ぐへへ……ようこそ。闇の宴へ……」
操舵室に響く禍々しい声。
霧の中に浮かび上がる一人の黒衣の男は闇の司祭カザール。
「アル様、アレ完全にヤバいやつっすよ!説明不要なタイプっすよ!」
「うむ。ああいうのは大体、顔でわかる」
しかし、霧はただの霧ではなかった。
それは魂を迷わせ、記憶を混濁させ、味方すら敵に見せる“幻影の結界”。
「なにこれ!みんなの顔が……いや、エリックがめっちゃイケメンに見える!!ちょっと!それはないから!!」
「イケメン?それどういう意味っすか!?俺、意外とモテるって評判だったんすけど!?」
「いま言ったことぜーんぶウソウソウソウソ!」
そんな騒がしさの中、船の前方、結界の核が露わになる――
そこには、カザールが放った幻影の竜が空を塞いでいた。
「魔力を食らって成長する、夢喰いの虚像竜。貴様らの希望、喰らい尽くしてくれるわ……」
「あのー……無理無理無理!あんなん、魔導砲レベルの火力じゃなきゃムリですからね!?」
「じゃあ、撃てばいいだろ」
「アル様!撃つって簡単に言いますけど、あれ私の中でも“封印級”のやつなんですけど!」
そのとき、操舵室の床がせり上がり、さっちゃんの専用魔導砲座が展開される。
魔力供給管、五重魔力シール、安全装置――全部解除。
「よし……やったろうじゃないの。ナメんなよ、闇の司祭。こちとら、根性でピンチをチャンスに捻り出すタイプの女だよ!!」
さっちゃん、魔導飛行船の乗務員へ業務指令!
《超重魔導砲・アルティメットセンス☆ブラスター》発動シーンへと切り替わる。
「限界の向こう側に、さらに全開ッ!!」
「センサー、感覚1000%シンクロ!魔力回路フル解放!」
「暴走上等!過剰出力、警告無視!!」
「行くよおおおおおお!!」
「《超重魔導砲・アルティメットセンス☆ブラスター》ッッ!!☆★」
機体前方の魔導砲口がパカッと開き、内部から回転する六重魔石が光を放つ!
轟音と共に発射された超重魔導砲は、空を裂き、時空を歪ませながら一直線に竜を貫いた!!
爆発。光。衝撃。
空間すらねじ切る音――!
そして…
ドゴォォォォォォォン!!!
竜は叫びをあげながら消滅。
霧が、結界が、完全に晴れる。
「ぶっっっ壊れたあああああ!!」
「ふ、ふぅ……我ながら最高だったわ……」
魔導砲の爆煙の向こうから、ゆっくりと歩み出てくる一人の男。
アル様ことアイゼンハワード・ヴァル・デ・シュトラウス
風を切るようにマントがなびき、足音ひとつすら威厳に満ちる。
その瞳は、まるで夜の闇を切り裂く光――
冷静で、鋭く、すべてを見通しているようだった。
「……終わったのか?」
静かにそう呟いたのは、我らがアル様。
彼が一歩、甲板に足を踏み出すだけで、空気が引き締まる。
「アル様っ!遅いってばー!もう全部こっちで片付けちゃったんだから!」
さっちゃんが両腕をぶんぶん振り回してアピールするが、
アル様はただ静かに、空を見上げる。
まだ、霧は完全には晴れていない。
だが、もうその幻に惑わされる者はいなかった。
そして、静かに――
「闇がどれだけ濃くとも、俺たちの意志は、絶対に霞まない。」
沈黙。
誰もがその言葉の意味を、深く胸に刻んでいた。
そして、振り返りざまにもう一言――
「ここから先は、俺たちが選ぶ夜明けだ。」
光の中に立つアル様の姿は、まさに伝説の英雄そのもの。
――が。
「……いや、いやいやいや!!!」
さっちゃんが叫ぶ。
「ちょっと待って!私が魔導砲ぶっ放して竜ぶっ飛ばしたの!幻も見抜いたの!全部!ぜーんぶ!私なの!!」
「それなのに、なんで最後に全部持ってくの!?イケメンはずるいでしょ!!」
甲板に響く、さっちゃんの魂の叫び。
魔導飛行船は、静かに、しかし確かに夜明けの空へと進んでいった。
まだまだ続くよーっと