第四話 エリックとカンナの空挺任務
《アストラ=バルムガンド》の艦橋に、緊張が走っていた。
「報告! 補給都市上空にて、浮遊魔岩を占拠する謎の武装集団を確認! 人質多数!」
「浮遊魔岩だと? あそこは高度3,000メートルよ。空挺での強襲作戦しかないわね……」
さっちゃんの艦長の命令が飛ぶ中、カンナ姫はすぐさま装備を整えた。
その横に、既に準備万端のエリックが立っていた。
「空から突っ込むとか、燃えるっすねぇ!」
「……あんた本当に命の重さとか考えたことないの?」
「え、俺いつも考えてますよ? “いかに楽しく生き延びるか”って!」
「……脳筋おバカだわ……」
作戦はこうだ。浮遊魔岩に空挺で降下し、魔法障壁を破壊、内部に突入。人質を救出し、敵を制圧する。
普通の兵なら怯むような任務だが、カンナとエリックは即決で手を挙げた。
そして夜明け。雲を切る風の中、二人の空挺魔導具が音を立てて降下していく。
「行くよ、エリック!!」
「任せとけっす、姫さま!!」
敵の魔銃が飛び交う中、エリックは回転しながら空中で手斧を構える。
「喰らえぇえええ!!」
必殺・斧旋海牙!!!
海のようにうねる回転斬撃が敵の砲台を粉砕、着地と同時にカンナが叫ぶ。
「《グラン・ツァン・ハンマー・ノヴァ》!!」
地面がうねり、重力ごと敵を打ち砕く。
だが、敵の増援が次々と押し寄せてくる。逃げ場もない高所
「カンナさん、下がってください、 ここは俺が切り込みます!」
「はあ!? 一人で突っ込む気!?」
「いや、ただしっかり見てほしいっす。俺の“背中”を」
そう言って、エリックは魔獣の群れに真正面から突っ込んでいった。
拳ひとつで獣を倒し、飛来する魔弾を肩で受け、それでも、倒れない。
彼の戦いは、まるで踊るようだった。大胆で、無茶で、でも――誰よりも仲間を守るための戦い方だった。
(このバカ……どうしてこんなに、真っ直ぐなのよ……)
気づけば、カンナはその背中から目を離せなかった。
「……はっ!」
自分の心臓が、早鐘を打っている。
「なに……これ……」
その瞬間、かつてリスクに抱いた“憧れ”とは違う、もっと熱く、もっと眩しい感情が胸を占めた。
(この男の隣で、一緒に戦いたい――)
その思いがつのり、彼女の心臓が弾ける。
金槌が天に向けて振り切られた次の瞬間――カンナの瞳がぎらりと光る。
「重圧撃!!」
咆哮のような詠唱と共に、金槌が地面へ叩きつけられた。
エリックを援護する大かなづちの一撃が、敵を薙ぎ払う。
「助かったっす、姫さま!」
「……ばか、遅いのよ、あんたがやられる前に私が殺すって決めてたの!」
「えっ、それって褒め言葉っすか!?」
「黙って闘いなさいよ、バカ!」
===========================
戦いが終わった後、夕暮れの甲板。
「今日の戦い、すごかったっすねぇ」
「ええ。……あんたもね」
「え? 今、俺のこと褒めました?」
「死ね、筋肉バカ」
「やっぱツンが強いっすねぇ〜」
でもその時、エリックは気づいていなかった。
カンナ姫が、自分の後ろを歩くとき、ほんの少しだけ、頬を赤らめていたことに。
そして夜カンナは日記帳を開いた。
《……エリックの背中に、なぜか目が離せなかった。
たぶん、あれが“惚れる”ってことなんだと思う。
――でも、まだあのバカには教えてあげない。》
まだまだ続く