第二話 さっちゃん、空を斬る! 魔導飛行船vs空中盗賊団
蒼穹を裂いて、魔導飛行船《アストラ=バルムガンド》は進む。
高度三千、風は強く、空は晴れている。
「ふふふふっ、今日も完璧なエンジン音。どうです、アル様、さっちゃん天才すぎじゃないっすか?」
操縦席に座るピンクのワンピの可愛い少女。いや、ベビーサタンの天才使い魔・さっちゃんは自画自賛。
ツインテールを揺らし、操縦桿を優雅に操作していた。
だがそのとき――
「反応、上空より急速接近!不明機六!否、……これは飛行型魔導バイク!空賊だ!」
カンナ姫が叫ぶ。
「ふん、また野良の掃除か」とアル様。余裕の笑み。
「来るなら来てみろ、この《アストラ=バルムガンド》は空の城……ゼロ部隊、全員配置につけ!」
エリックが即座に手斧を肩にかつぎ、フラちゃんは注射器に謎の薬液を満たし始める。
空を駆ける空賊たちの乗機は、黒鉄のバイクに魔石を取り付けた粗雑な代物。しかし数は多い。
「さっちゃん、回避機動を――」
「へいへい、まっかせなさーい♪ っておい、アル様!またそんな格好して……」
既に艦橋を離れたアイゼンハワードは、船首で詠唱を始めていた。
漆黒のマントがはためき、空気が震える。
「目覚めよ、古き獣よ……
闇よ、我が肉体を喰らい尽くせ。
王の血よ、魔獣の骨よ――
真の姿へと具現せよ……
《魔獣 ライカントロス》!」
その瞬間、アイゼンハワードの身体が漆黒の獣へと変貌する。
巨大な黒狼の姿、眼光は深淵より生まれたような冷たさを宿していた。牙は雷鳴、爪は鋼鉄を断つ。
「魔獣先輩、容赦ないっすね……!もうちょい加減ってもんを……」
さっちゃんがツッコむ間もなく、獣は跳躍。
「《ベヒモス・コード 第参式──大イーグルー顕現》!」
狼が、巨大な白き大鷲へと姿を変える。翼を広げると、その影が飛行船をすっぽりと覆った。
「目標、三番機、撃墜――」
空賊の一人が叫ぶ間もなく、鋭利な爪が空を裂き、バイクごと真っ二つに。
衝撃波が連鎖し、空賊団は次々に落下していく。
「ヒャァーーー!!た、助け――!!」
「《雷撃槍・グラン=ツァンハンマー》!!」
カンナ姫のハンマーが甲板に出現した空賊を吹き飛ばし、
エリックは着地した空賊のリーダーを背後から無言で叩き伏せる。
フラちゃんは倒れた空賊の傷をニコニコしながら「LOVE治療♡」しようとするが、
さっちゃんが即座にストップ。
「おいフラちゃん、死体で“新しいお友達”作ろうとするのやめい!!wwww」
「次 、逝ってみよう!」
空は再び静寂を取り戻す。
さっちゃんはため息をついて、全員の姿を見渡した。
「おい…大丈夫なの?このゼロ部隊の空挺団はよぉ!!」
さっちゃんの悲鳴(?)が、今日も空に響くのだった。




