プロローグ 平和の影に潜む闇
——諜報部ナカムラより——
人間と魔族の戦争が終わって、世界に平和が訪れた。完結!なんて幻想は、花畑で踊る妖精くらいしか信じちゃいない。
現実はもっとドロドロで、グラグラで、ピリついてる。
「これが最新の情報です、アル様」
そう言って資料を差し出したのは、ゼロ部隊諜報部のナカムラ。
和の国からきた身なりは地味、声も小さく、印象もゼロ。でもその情報精度は国家クラス。
「……闇の司祭カザールが、復活?」
アイゼンハワード(通称アル様)。ゼロ部隊のイケメン頭脳で、真勇者たちと共に世界を救った英雄……だけど、完璧超人すぎて逆にちょっとムカつく。
そのとき。
「……は? 死んだって言ってたよね? いやいや、なんで毎回、死んだやつが息を吹き返すのよこの世界は!」
操縦席から声を上げたのは、このアストラ=バルムガンド号を操る私、使い魔さっちゃん。
外見はベビーサタン、中身はツッコミ担当、そしてこの船の魔導炉そのもの。
「それにさー、闇の司祭カザールってあの、演説がやたら長い割に内容スカスカの、暗黒ポエマーでしょ? そいつがまた暴れるって? 冗談でしょ? 誰が止めたの前回、ちゃんと火葬した?」
ナカムラが咳払いする。
「……その、蘇生魔法の痕跡が《竜の墓所》で確認されました。さらに、ネオ魔王軍という新勢力も動いているとのこと。カザールは世界を滅ぼしかけた魔竜ディアヴォルトを復活させようとしています。」
「ネオ? 名前がダサいんですけど。前の魔王軍の残党に、名前考える暇あったんだ? むしろ見直したわ」
「構成員には、魔族貴族の末裔、傭兵、人間の裏社会の流れ者まで混在しています。秩序のない混沌……ですが、まとめ上げているのが、あのカザールです」
「はーーー……もう一回燃やそ? 今度は灰になるまで」
アル様が、冷静にさっちゃんへ指示を出す。
「出航準備を。目的地は《黙示の谷》。魔竜ディアヴォルトの復活を阻止する」
「はーーい。戦争終わったと思ったら即出動! 我々ゼロ部隊、休みゼロ!! この労働環境、魔界なら余裕でブラック認定!!」
それでも私は、魔力を回して、魔導飛行船アストラ=バルムガンドを浮かび上がらせた。
艦内に魔力の風が流れ、光るラインが床を走る。
機関部が共鳴し、空への道が開かれる。
ナカムラが一歩下がり、表情を消して頭を下げる。
「……皆さんのご武運を。世界はまだ、あなたたちの背中に守られています」
「いやもう、重いのよその期待。腰に来るの。誰かサロンパス貼って」
魔導飛行船《アストラ=バルムガンド》、空へ出撃。
目指すは、古竜が眠る黙示の谷。
毒舌さっちゃんと、完璧すぎるアル様が、またも世界の危機に立ち向かう!
——って、これ絶対またロクでもない目に遭うやつじゃん!!
その頃 前、主人公リスクは山で狩りをシスターマリアは畑を耕していた。