第5話 南蛮船、接近!
豊後水道。
潮は穏やかだった。
南蛮航路物産株式会社の船団は、
修理を終え、再び海へ出ていた。
失った一隻の穴は大きい。
だが止まるわけにはいかない。
その朝、見張りが叫ぶ。
「南蛮船、接近!」
白帆。
赤い十字。
交易船に見える。
だが距離が縮まった瞬間、
帆の影から現れたのは武装した男たちだった。
砲口がこちらを向く。
海賊旗が翻る。
「偽装だ!」
砲撃。
水柱が上がる。
積荷の銀と硫黄を狙った襲撃。
“平和貿易”は幻想だった。
緊急戦闘態勢。
宗麟が即断する。
大友宗麟の声は鋼のように響く。
「武装商船化を急げ!」
「商人は丸腰で海に出るな。」
甲板下から現れるのは、
密かに編成していた護衛部隊。
くノ一部隊―
黒装束で帆柱を駆け、敵船へ跳ぶ。
クロスボウ部隊
静かに、確実に敵の指揮官を狙う。
盾部隊
大盾を並べ、矢弾を防ぎながら前進。
僕は震える手で命令を出す。
「積荷は守れ!だが命を優先しろ!」
砲声。
怒号。
血飛沫。
海は一瞬で戦場に変わった。
敵は荒く、速い。
略奪専門の海賊。
だが統制は甘い。
宗麟は見抜いていた。
「指揮を落とせ。」
クロスボウが放たれる。
敵頭目が崩れる。
統率が乱れる。
くノ一部隊が火薬庫へ侵入。
火種を奪う。
盾部隊が押し上げる。
白兵戦。
刃がぶつかる。
僕は初めて、
人が倒れる瞬間を目の当たりにする。
味方も、倒れる。
血が甲板を濡らす。
「ここで退けば終わる!」
叫びながら前へ出る。
その瞬間――
味方の鉄砲が轟く。
敵船の舵輪を破壊。
制御を失った海賊船が流される。
勝負は決した。
海賊たちは退いた。
豊後水道に、静寂が戻る。
だが甲板には、
無数の血が残る。
勝った。
しかし無傷ではない。
負傷者を運びながら、僕は立ち尽くす。
「……これが、海か。」
宗麟が隣に立つ。
「商いは理で始まり、力で守る。」
「力なき理想は、奪われるだけじゃ。」
僕は理解する。
“平和貿易”など存在しない。
海は法なき世界。
守る力を持つ者だけが、
取引の席に座れる。
その夜。
南蛮航路物産株式会社は決断する。
全商船を武装化。
護衛部隊の常設。
情報網の強化。
血の代償で得た教訓。
幻想は崩れた。
だが理想は捨てない。
力を持った理想へと進化する。
豊後の海に、新たな旗が翻る。
それは海賊旗ではない。
武装商社の旗だった。




