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第十話 和平を望まぬもの

人間の王から与えられた停戦の書簡と、ゼロ部隊の組織の発足許可。

俺たちは希望を載せて、飛空艇で魔界の門を目指していた。


だが空を裂いて現れたのは、鉄と硝煙の巨影。


「ここで死んでもらう、和平の使者ども!」


武器商人フォボスが乗る黒鉄の飛行艦隊が、俺たちを待ち受けていた。


「戦争が終われば、武器は売れねぇ。戦は商売。お前たちは、商売敵だ!」


その言葉に、俺の胸が冷たくなる。


フォボスの言葉は、戦争を“市場”にしている者の本音だ。

そして、和平を“邪魔”としか見ない者が、確かに人間界にもいるという現実だった。


空中での激戦が始まる。


反逆の逆の戦士のバルドルの雷光が閃き、

海賊戦士のエリックの斧が空中を舞い、

レジスタンスのナカムラの剣閃が敵陣を貫き、

カンナの大金づちが鉄の巨兵を破壊していく。


だが、その中心で、静かに敵を“断罪”していたのは、アイゼンハワードだった。


宝石をちりばめた黒マントが翻る。

レースのシャツ、紅の薔薇のブローチ。

その姿は、まるで夜会の貴公子。

もしくは、血を浴びずに血を支配する、優雅な血塗られた伯爵。


「醜い金に魂を売った者よ。舞台は終幕だ」


彼の細剣が一閃。

切っ先が銀の閃光を放ち、フォボスの部下たちが次々と静かに倒れていく。


そして舞台の主役はついにボス戦、フォボス一騎打ちとなった。


「や、やめろ……! 貴様らこそ狂ってるんだッ!」


フォボスは後退りながら銃を乱射する。

だが、その弾丸すら、彼のマントは舞い、風のようにかわす。


アイゼンハワードの声は、月光のように冷たい。


「そんな手元の銃で、未来を止められるとでも?」


瞬間、彼の剣が虚空を裂いた。


断罪アナテマ――その魂、金で計られし者に死を。」


その一閃が、フォボスの首筋を斜めに斬り裂いた。


フォボスの目が見開かれ、

唇が、何かを言おうと震えたが....言葉にはならなかった。


膝をつき、歯を剥き、血泡を吹き、

そのまま地に顔を叩きつけるように、醜く倒れた。


その姿を見下ろしながら、使い魔のさっちゃんが冷たく言い捨てる。


「……うわ、ほんとにクソみたいな死に方。

 金で肥えた豚が、泥水で溺死してるみたい」


凶風が吹き、フォボスのマントだけが空に舞う。


アイゼンハワードは、その死体を一瞥すると、そっと剣を鞘に収めた。


「哀れなり、欲に生き、志なく果てる者よ」


彼の姿は、まるで舞台の幕を引く最後の聖戦士の主演男優。

誰よりも静かに、そして誰よりも強く、決着を告げていた。


武器商人のフォボスの死によって、空は静寂を取り戻す。


だが、さっちゃんはぽつりとつぶやいた。


「人間って、ほんと救いようないときあるわ……」


それでも、俺たちは空を飛び続ける。


この人間と魔族との戦争を、終わらせるために。

かつての勇者と魔王の誓いを、俺たちの手で、未来につなぐために。



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