第2話 銀と利を越える構えの契約
港に朝靄が立ちこめる。
帆柱の軋む音。
波止場に積まれる麻袋。
中には石見銀山の銀。
そして火山の国が生んだ硫黄。
【南蛮航路物産株式会社】
その最初の仕事が、今まさに動き出す。
出資は決まった。
だが条件は苛烈だった。
「三航海以内に倍返し。」
失敗すれば、会社は解体。
船も港も、夢も、差し押さえ。
書状に判を押した夜、
僕の手は震えていた。
その横で、
大友宗麟が静かに言った。
「利で縛る者は、利で裏切る。」
「じゃっどん
利を越える“構え”を見せれば、人はついて来る。」
黄金の国ジパング。
南蛮人が渇望するのは銀。
火薬の原料となる硫黄。
世界は戦の時代。
弾丸の裏には、必ず銀がいる。
僕たちは読む。
銀を輸出し、
代わりに鉄砲、絹織物、香辛料を得る。
そして国内で加工し、
再び世界へ売る。
単なる往復ではない。
循環を作る。
それが、僕の産業革命の第一歩だった。
だが
出航前に、現実が牙を剥く。
為替差損。
南蛮銀貨と日本銀の交換比率が、
出資契約時とずれていた。
港湾手数料。
通行税、積替税、護衛費。
想定の二割増。
帳簿を見た瞬間、
血の気が引く。
「……もう、削られている。」
宗麟は笑わなかった。
「商いは船が出る前に八分決まる。」
「海に出てから慌てる者は、沈む。」
僕は徹夜で計算をやり直す。
積載効率の再設計。
硫黄の純度選別。
保険契約の見直し。
商いは戦だ。
刀ではなく、数字で斬る戦。
出帆の日。
港に人が集まる。
誰もが半信半疑だ。
若造とキリシタン大名が世界を相手にする?
笑う者もいる。
だが船は動き出す。
帆が膨らむ。
潮が変わる。
僕は甲板に立ち、叫ぶ。
「これは銀を売る航海じゃない!」
「未来を買う航海だ!」
宗麟が横で静かに言う。
「覚えちょけ。」
「最初の航海はな、
儲けを出すためじゃなか。」
「信用を運ぶためじゃ。」
沖へ出る。
日本列島が小さくなる。
だが胸の奥は、
逆に広がっていく。
銀と硫黄を積んだ船団は、
南蛮航路へ。
まだ利益は出ていない。
むしろ赤字寸前。
だが確かに始まった。
黄金の国ジパングから、
世界市場への第一歩。
【南蛮航路物産株式会社】
商いは出航前から戦だった。
そして今
その戦が、海の上で始まる。




