第3話 古池や蛙飛び込む水の音
瀬戸内。
静かな入江。
船はまだ出ていない。
塩田も、動いていない。
朝は、ただ白い。
僕は浜に立つ。
塩はある。
米もある。
醤油もある。
だが
「まだ、物流網になっていない」
点のままだ。
越後の米。
瀬戸内の塩。
伊予の柑橘。
堺の刃物。
誇りはある。
だが、物が流れていない。
芭蕉が、古びた溜池を見ている。
風もない。
波もない。
ただ、水面。
僕
「静かですね」
芭蕉
「静かだ」
沈黙。
その時。
ぽちゃん。
小さな水音。
波紋が、円を描く。
ひとつ。
ふたつ。
広がる。
芭蕉、筆をとる。
古池や
蛙飛び込む
水の音
僕は、水面を見る。
たったひとつの飛び込み。
だが、いずれ波は岸まで届く。
僕
「……最初の一便ですね」
芭蕉は何も言わない。
僕は続ける。
「ひとつ動けば、広がる」
最初の船。
最初の塩袋。
最初の中継蔵。
小さな“音”。
だが、その波紋は――
京へ。
大坂へ。
江戸へ。
やがて全国へ。
僕
「物流は、戦ではない。波紋だ」
止まっていた物産が、動き出す。
静かな浜に、船の軋む音。
帆が上がる。
水が割れる。
もう、古池ではない。
海だ。
芭蕉が、僕を見る。
僕
「僕が飛び込みます」
帆船が沖へ出る。
波が広がる。
塩が運ばれる。
味が広がる。
関係が広がる。
やがて
時代が動く。
静寂の中の一音。
それが、物流革命の始まり。
物産物流網は、
いま、水の音から始まった。




