第16話 国境までの山道
俺たちが進む山道は、まるで人を拒むような険しい獣道だった。山には濃い霧が視界を遮り、湿った空気が肌にまとわりつく。
道と呼べるほど整ってはおらず、むき出しの岩肌、滑りやすい苔の生えた斜面、急勾配の崖道が容赦なく続く。
「……くっ、足元が悪すぎる……!」
俺は泥だらけの靴を確認しながら、前方のぬかるみを飛び越えた。
「アルベルト様、お足元にお気をつけくださいませ」
マーリンのセクシーな衣装と山道の道のりはミスマッチであった。
「はーっはっは! このくらいの道、へっちゃらだって!」
勇者アルベルトは無駄に元気だが、肩に担いだ荷物がズルッと滑って転びかける。
「うわっ! ちょ、ちょっとマーリン、手貸してー!」
「……お気をつけあそばせ」
マーリンは無表情のまま、ふわりと片手でアルベルトを支える。その指先はまるで冷気を帯びているようだった。
木々は不気味に軋み、遠くからは野獣の遠吠えが聞こえる。空には黒雲が垂れ込み、今にも雨が降りそうだった。
「ここ、昔は盗賊団が根城にしていたって聞いたことある……」
俺がそう言うと、マーリンが静かに口を開く。
「……この道は“死者の参道”とも呼ばれていたそうですわ。数百年前、王国と魔王軍の激戦の跡地――魂が未だ迷っているとか」
「やめてよもう! そういう話苦手なんだってば!」
アルベルトが肩をすくめて震える。
「……風の匂いが変わったわ」
シスターマリアが立ち止まって、辺りを見渡す。
ゴロゴロ……
雷鳴が遠くで鳴った。
次の瞬間、木々の影からうごめく巨大な影
「モンスターっ! 接近してくる!!」
俺が叫んだとき霧の中から突如姿を現したのは、岩石の魔人と、牙を剥いたオークの兵士たちだった。
名前 岩石の魔人
体力 : 58
攻撃 : 38
防御 : 65
素早さ:28
この世界で岩石と魔人が合わさったモンスター岩のように固く物理防御が高い。
名前 オーク兵士
体力 : 100
攻撃 : 40
防御 : 35
素早さ: 17
この世界でブタと人間が合わさったモンスター体力が高くもっている槍で攻撃をしてくる。
「ぐるぅあああ!!」
岩肌のような皮膚に、燃えるような赤い目をした岩石の魔人が咆哮した。
その隣には牙を剥いたオーク兵士が、槍を振りかざして突進してくる。
「これはいきなり全力案件だな……!」
勇者アルベルトが剣に手をかけた、その瞬間――
「……ふふ。では、お見せしましょう」
マーリンが一歩前に出る。冷たい視線、まるで感情の読めない笑み。
「暗黒の闇の雷よ、降り注ぎ、喰らいつくせ サンダーヴォルト!」
バリバリバリバリバリィィィ――ッ!!!
漆黒の雷が天を裂き、閃光が闇を切り裂いた。
ズガァァァァァン――ッ!!!
轟音とともに、岩石の魔人の巨体が黒煙に包まれ、
ガギィィィ――ン!
バリバリバリッ!! ガラガラガラガラ……ドシャァァァァン!
砕けた岩の破片が辺りに飛び散り、地面に深いクレーターを残して沈黙する。
岩石の魔人が雷に貫かれ真っ二つに砕け散った。
同時に、マーリンは指先を弧を描くように振る。
「 永遠の悪夢よ、心を包み込め ナイトメア!」
黒い霧がオーク兵士を包み込み、奴はブヒ……と間抜けな声を出し、白目をむいて眠り込んだ。
「「……」」
しばしの沈黙。
「マーリン、すごいじゃないかぁ! 即戦力だよ君!!」
勇者アルベルトが目を輝かせながら、マーリンの肩を叩く。
「……嬉しいですわ。アルベルト様のお役に立てて」
マーリンは微笑むが、その目はまるで硝子のように冷たい。
(タイミングが良すぎる……バルドルが現れてすぐに現れた謎の高火力魔導士)
俺はマーリンをちらりと見る。笑っているが、笑っていない目。
(あの魔法の威力で、世の中にまったく名が出ていない? そんなのあるのか?)
「リスクさん?」
シスターマリアが不思議そうにこちらを見る。
「ああ、何でもない」
そして――山道を登りきった先に現れたのは、山脈の守護者・魔人ゴーレム。
その巨大な体躯が、ドスン、と地響きを立てて立ちはだかる。
名前 魔人ゴーレム
体力 : 700
攻撃 : 210
防御 : 320
素早さ:58
この世界で岩石と魔人が合わさったモンスター岩のように固く物理防御が高い。
「また出たな、石野郎……のボス!」
勇者アルベルトが剣を構える。
だが、マーリンは顔色ひとつ変えない。
ついに国境への山道はボス戦へと突入するのだった。




