第1話 旅人と風の行く手に道ひらく
とある山道。
くノ一が戻る。
くノ一
「報告。芭蕉、本日も十五里近く移動」
僕
「……やっぱり速すぎる」
俳人だ。武士でも飛脚でもない。
なのに、移動距離は軍勢並み。忍者なのかな?
宿場町。
芭蕉が筆をとる。
芭蕉が俳句を一句
「夏草や 兵どもが 夢の跡」
僕(横からのぞく)
夏草。
荒れた城跡。
地形は平地。
兵の移動跡。
僕の頭の中で線が繋がる。
僕
「それ、廃城情報でしょう」
芭蕉、筆を止める。
芭蕉
「俳句とは、見たものを書く」
僕
「全部なのですか?」
沈黙。
その夜。
僕は句帳を広げる。
・山の句
・川の句
・橋の句
・宿場の句
全部、場所が特定できる。
距離も推測できる。
僕
「これ……測量ログじゃないか」
街道整備図を広げる。
芭蕉の句の地点を赤で印す。
すると
一本の線が浮かび上がる。
日本縦断ルート。
僕
「やっぱり地図だ」
翌朝。
僕は芭蕉の前に座る。
僕
「あなた、俳人じゃないですね」
芭蕉
「ほう?」
僕
「道を測っている」
風が吹く。
芭蕉は笑わない。
否定もしない。
ただ言う。
芭蕉
「道は、歩いた者にしか分からぬ」
僕
「なら一緒に歩きましょう」
間。
芭蕉
「何のために?」
僕
「物流です」
芭蕉の眉が、わずかに動く。
僕
「街道は血管。
名産品は心臓。 贈答は潤滑油。
そしてあなたの句は」
一呼吸。
僕
「地図です」
長い沈黙のあと。
芭蕉
「面白い若者よ」
そして、静かに一句。
「旅人と
風の行く手に
道ひらく」
くノ一が僕を見る。
僕は小さく頷く。
中田運送、松尾芭蕉(自称俳人)をスカウトを完了した。




