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第七話 魔王の過去

魔界の夜は長い。

星は赤く滲み、風は過去の叫びを運んでくる。


映画の祭典が終わり、街には静けさが戻っていた。

だが俺の中では、まだ何かが燃えていた。


あのトイレで魔王ガルヴァ・ネクロデスが語った「人間たちが我らを追いやった」という言葉──

そして王から届いた、たった一行の書簡。


「真実は墓場までもっていけ」


俺は知りたかった。

すべての始まりを──

そして、魔王の“怒り”の正体を。


魔界の最深部《黄泉の鏡の間》。


そこには、過去の記憶を映す魔界遺産「哭きのエレギア・スペクルム」が眠っているという。


アイゼンハワードが特別なルートでその場所を手配してくれた。


「危険だけど、君には見る資格がある。見た後、後悔しないとは限らないけどな」


俺はたった一人でその鏡の前に立った。


深紅の魔水晶が光を放ち、俺の記憶と同調する。

すると、鏡の奥に朽ちた過去の時代の風景が広がった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

【過去の映像】



──そこには、若き日の魔王ガルヴァ・ネクロデスの姿があった。

まだ“魔王”ではなかった頃の彼は、ひとりの知恵者として、人間たちと交流していた。


その隣には、堂々たる剣士。

かつての人間界の勇者──レオン=アズレアス。


彼らは共に戦った。

魔獣の脅威に対して、人間と魔族が肩を並べた時代が、確かにあったのだ。


そしてある日、二人はある“約束”を交わした。


「互いの世界を侵さず、境界を保つ。争いを終わらせ、共存を未来へつなぐ」


それが、勇者と魔族の盟約《誓約の白焔》。


炎の中で契られたその誓いは、互いの魂を刻印し合う、絶対の約束だった──はずだった。


だが。


鏡の映像が、血に染まる。


燃え上がる魔界の辺境。

蹂躙される魔族の村。

無慈悲に剣を振るうのは、かつての人間たち。

そして、その先頭にいたのは……老いた、レオン=アズレアス。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「……誓いは、破られた」


背後から、重い声がした。


俺は振り返る。


そこには、なんと魔王ガルヴァ・ネクロデスが立っていた。


「勇者だった奴は人間の王となり、誓いを破った。和平は夢物語だった。我らはただ、裏切られ、追われ、魔界へ閉じ込められた」


「……でも、あなたはまだ、人間の言葉を理解しようとしていた。なぜです?」


「……レオンの“あの時の顔”が、忘れられぬ」


魔王の声が、震えていた。


「友だと思っていた。共に未来を築けると信じた。だがあいつは、私の前で言った。『人間の世界のために、お前らには消えてもらう』と……」


**


俺は、拳を握った。


人間は、そんなことを……

だが王の書簡は、その裏付けだったのかもしれない。


俺は聞いた。


「魔王……それでも、あなたはトイレで俺に真実を話した。それはなぜですか?」


魔王は、わずかに口元を緩めた。


「俺は、今でも“あの時の未来”を夢に見る。 レオンと交わした、あの誓いの未来をな……」


「……」


「だからこそ、お前たちの動きに関心を持った。 お前が“ゼロの能力者”ならば、選べる。

 人間の手先として戦うもよし、あるいは、真実を胸に、別の道を探るもよし」


その瞳の奥にあったのは、憎しみではなく……哀しみだった。


俺は、魔王に深く頭を下げた。


「……ありがとうございました。俺は……この真実を、どうするべきか、もう少し考えてみます」


魔王は静かにうなずいた。


「墓場まで持っていくもよし。叫び広めるもよし。

お前は、選べる立場にある。それが“ゼロの能力者”の特権だ」


風が吹いた。

涙のような灰が舞う。


俺はその灰の中で、拳を握り、ひとつ誓った。


「俺は、嘘で始まったこの戦いに、真実で終わりを迎えさせる、魔族と和平の道あるかもしれない。」


その夜、空を仰ぐと、魔界の月が人間の世界と同じ形をしていた。



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