第五話 魔界のエンターテインメント
黒紫の霧に包まれた丘を越え、俺たちは魔界の映画の都ハリハリウッドにたどり着いた。
「ここが……魔界最大の娯楽都市……すげぇええ派手」
思わずため息が漏れる。
どこを見ても怪しくきらびやかなネオンが光り、空中を飛ぶ魔導のドローンが映画の撮影を行っている。通りには魔物スターの看板が立ち並び、その中でもひときわ目を引く巨大なビルに、こう書かれていた。
「悪ナーピクチャーズ総本社」
そして通りの向こうには、忌まわしくも魅惑的なテーマパーク、「悪夢のデビルパーク」がそびえていた。
入口のモニュメントには巨大な悪魔のネズミが悪そうな顔で手招きする。
「アル様、ここに出資してるんですか?」
「ふふ、エンタメは金になる。悪夢は夢より高く売れるんだよ、リスクくん」
金色のステッキをクルクル回しながら、美男子のキメ顔でアイゼンハワードは上機嫌で答える。
「……やっぱ悪魔だコイツ」
俺は心の中で呟いた。
園内には魔界の子供たちが、奇怪なマスコットキャラたちと大はしゃぎしている。
スライムに似たぷるぷるの風船、爆発するチュロス、魂がほんのり抜けるジェットコースター──。
しかし、その光景を見ていて、ふとひらめいた。
「……これは、いける……!」
「は?」
とマーリン姉さんが冷ややかに振り向いた。
「アニメ→グッズ→テーマパーク……!」
俺は震える声で言った。
「魔界コンテンツを、人間界に逆輸入するんだ!これは金になる!」
「なるほど、それで私と契約を結びに?」
とアル様が契約書を取り出してきた。
契約書には【人間商売における悪魔契約】と金文字で書かれていた。地獄の印が輝き、魂の署名欄がある。
「……いくぞ」
俺は震える手でサインした。
「おいおい……お前、自分の魂そんな軽かったっけ?」
とマーリン姉さん。
「売り物にするのは他人の夢と魂です」
俺はきっぱり言った。
「わぁ~!パクるんじゃねぇよ!!!」
突然、空中から叫び声。
俺の肩に着地したのは、小悪魔さっちゃん。
「なにドヤ顔で『逆輸入』とか言ってんだよ!どこぞのアメ公の夢の国で見た企画そのまんまじゃねぇか!」
「いやいや、これは魔界風味で再構成して……!」
「チュロスが爆発すれば魔界ってわけじゃねぇんだよ!てか、"悪ナーピクチャーズ"って名前、パクリで訴えられるからな!!」
「黙れ使い魔!」
アル様が一喝するが、さっちゃんは舌を出して飛び去った。
俺はテーマパークを見つめながら、呟いた。
「……金になる」
「それしか言ってないな、君」
と勇者アルベルトがぼそっと呟いた。
俺の商売魂に火がついた。
魔界のエンターテインメントを人間のエンターテインメントへと昇華する、俺のエンターテインメントによる夢の人生は、これからだ。




