第12話 1回〜3回「忍術は健在、剣豪ズは耐える」
球場に、審判の乾いた声が響く。
「プレイ!」
◇1回表(影の集団・攻撃)
白球が、武蔵の掌に収まった瞬間空気が、ぴたりと止まった。
武蔵は、剣を構えるようにセットポジションへ入る。
右足、半歩前。重心は低く、腰で溜める。
観客席の弥助が、ぽつり。
「……アレ、斬る前ノ姿勢ダ」
捕手がサインを出す前に、武蔵はすでに“間合い”を測り終えていた。
マウンドに立つ、宮本武蔵。
構えは、完全に剣の中段。
視線は打者ではなく。間合いそのもの。
初球。
剛速球ではない。
剣を振り出す寸前の“溜め”から放たれる、
遅れて来る変化球。
しかし
忍者側は、すでに見抜いていた。
霧隠の水遁が、空気の流れを変える。
球速の錯覚を打ち消す。
服部半蔵の分身が、同時に動く。
視線を散らす。
そして風魔小太郎。
走らない。
影だけが、次の塁へ滑る。
「……しまった」
一瞬の判断遅れ。
内野の白線を、打球が舐める。
先制点(1点が影の軍団に入る)
武蔵、歯を食いしばる。
「……まだだ」
■1回裏(剣豪ズ・攻撃)
先頭、佐々木小次郎。
フルスイング。
空振り。
だが、観客がどよめく。
「今の……綺麗すぎないか?」
二球目。
また空振り。
三球目。
完全に見送る。
小次郎、ベンチへ戻りながら呟く。
「……回転、速すぎる」
続く伊東一刀斎。
-夢想剣-
振らないで夢の中で球を当てる。
ゴロ。
だが忍者守備に阻まれ、アウト。
槍の又兵衛が打席へ。
内野に転がす。
全力疾走。
だが、一歩及ばず。
三者凡退。
監督の卜伝、腕を組んだまま。
「焦るな。まだ序だ」
◇2回表(影の集団・攻撃)
服部半蔵。
モズ落とし打法。
高く上がり、
途中で、急に落ちる。
「来る……いや、落ちる!」
外野、混乱。
だが
伊東一刀斎が、もうそこにいる。
最初から落下点。
-夢想守備-
寝ながら無言で捕球。
アウト。
次打者。再びモズ落とし。
今度は抜けた。
小太郎の影が、二塁へ、三塁へ。
犠牲フライ。
追加点(さらに1点が影の軍団に入る)
武蔵、深呼吸。
次の球。
剛速球。
次は、
落ちる球。
次は、
逃げる球。
三振。
最後の打者。又兵衛が、信じられない位置から飛び出す。
「そこ、俺の!」
横っ飛び。
アウト。3アウトチェンジ!
■2回裏(剣豪ズ・攻撃)
武蔵、打席へ。
アッパースイング。
だが、火遁の球に押され、ファウル。
二球目。
変化球。
見送る。
三球目。
振り抜く。
高く上がるが、伸びない。
外野フライ。
弥助が叫ぶ。
「今ノ、惜シイ!」
小次郎、再び打席。
三振。
だが、目が笑っている。
「……もう少しだ」
◇3回表(影の集団・攻撃)
影の集団、畳みかけに来る。
小技。バント。
影走り。
武蔵、耐える。
剛速球で押し、
変化球でかわす。
だが、一瞬の隙。
内野安打。
3点目(1点が影の軍団に入る)
それでも崩れない。
最後の打者。
全力の剛速球。
バットが折れる。
三振。
武蔵、拳を握る。
「……ここまでだ」
■3回裏(剣豪ズ・攻撃)
伊東一刀斎。
当てる。
内野ゴロ。
だが、進塁。
槍の又兵衛。
強引に振る。
内野安打。
二人、出る。
ベンチがざわつく。
監督の卜伝、低く。
「……だが、今は行くな」
次打者、凡退。
3アウトチェンジ。
3回終了
スコアボード。
剣豪ズ 影の集団
0 ― 3
武蔵、汗だくでマウンドを降りる。
卜伝が、ぽつり。
「……まだ、想定内だ」
柳生宗矩、ノートを閉じる。
「忍術は強い。だが野球は、九回ある残り六回だ。」
剣豪ズは、まだ折れていない。
耐えている。
次の回、何かが変わる気配だけが、確かに漂っていた。
続く。




