第10話 決戦前夜、風呂に入る。
その夜。
剣豪ズの宿は、異様な静けさに包まれていた。
忍者との再戦を明日に控え、
誰もが言葉少なに、自分の得物を磨いている。
ただ一人を除いて。
塚原卜伝、腕を組み、武蔵を見下ろす。
「……武蔵」
「はい?」
「まず風呂に入れ」
一同、凍る。
武蔵、眉をひそめる。
「……試合前に?」
卜伝、低い声で。
「臭い」
即答だった。
湯気の立つ風呂場。
武蔵、戸惑いながら桶を手に取る。
ゴシゴシ。
ゴシゴシゴシ。
……水、黒い。
「……なんだこれ」
弥助(外から)
「ソレガ十年分ノ戦場だ」
武蔵、黙って体を洗い続ける。
汗も、血も、土も、
“一人で戦ってきた証”が流れていく。
やがて、仲間たちも入ってくる。
弥助。
小次郎。
一刀斎。
又兵衛。
宗矩。
異様な面子が、異様に狭い湯船に詰め込まれる。
沈黙。
最初に口を開いたのは武蔵だった。
「……なぁ」
誰も答えない。
「俺さ」
湯気の向こうで、武蔵は言った。
「剣でも、投げるのでも、一人なら負けねぇって思ってた」
拳を握る。
「でも——」
顔を上げる。
「俺一人じゃ、勝てねぇ」
湯船が、しんと静まる。
佐々木小次郎、笑う。
「当たらない俺が言うのもなんだけどさ。結果だけが全部じゃないだろ?」
伊東一刀斎、半分寝ながら。
「意識がなくても守れる。……つまり、人は一人じゃなくても戦える」
高田又兵衛、槍の話を始めかけて止める。
「……守備範囲は、一人で広げるものじゃない」
柳生宗矩、静かに。
「力は分け合うもの。それを“仕組み”にするのが戦だ」
最後に監督の塚原卜伝。
「だから言ったろ」
武蔵を見る。
「チームとは、弱さを預ける場所だ」
武蔵、湯の中で天井を見る。
「……二刀流ってさ」
「強くなるためだと思ってた」
小さく笑う。
「でも違うな」
「足りない分を、埋めるための形だ」
風呂を出た武蔵。
髪は整い、
体は清潔で、
なにより、表情が違った。
卜伝、満足げに頷く。
「よし」
「これで負けても、言い訳はできん」
武蔵が、笑う。
「負けませんよ、監督」
夜明け前のグラウンド。
並んで座る剣豪ズ。
それぞれが違い、それぞれが欠けている。
だが。もう、一人じゃない。
忍者野球チーム、影の軍団との最終決戦がはじまる。




