第四話 シスターマリアの誕生日(2回目)
魔界に太陽が昇ることはない。
だがその朝、強烈な月光が、歓楽都市サンフランフランシスコの上空にかかっていた。
街はざわつき、狼男が咆哮しゴブリンたちは騒ぎ出す。
俺は今日この街では、シスターマリアの誕生日を祝う 最も喜ばせた者を決めるバトルが開催されていた。
だが相手は強敵!金に物を言わせる魔界の超富豪、アイゼンハワード(通称アル)と、その使い魔である毒舌ベビーサタンのさっちゃんだ。
リスクは緊張した顔で財布を握りしめていた。
「金じゃない……マリアを“想う気持ち”が勝つんだ……」
そう言いながら、背負っていた伝説級の武具《イーリスの弓》を迷いながらも質屋へ。
「ごめん、弓……あとで必ず迎えにいくからな……!」
【サンフラン魔界百貨店・VIPラウンジ】
アイゼンハワード(通称アル)は完璧に仕立てた白いスーツに、バラの花束。
さっちゃんを従えてシャンパンタワーと共に登場。
「今夜は、聖女の笑顔を買い取らせてもらうよ。カードはブラックだ」
微笑みの奥には余裕と驕りが混じっている。
「アルさん……見ててヒリヒリしますわ……それ、完全にホストの口説き文句っスよ……」
さっちゃんはVIP席で、りんごジュースを飲んでいる。
そして、ついにシスターマリアの前でプレゼント対決となった。
先攻はアイゼンハワード
銀のトレーに載せたのは、世界に1つしかない魔宝石のネックレスと、香水、そしてマリアの名を刻んだワイングラス。
「これが“誕生日”だよ、マリア。キミにふさわしい贈り物を……」
シスターマリアは目を伏せ、静かに一言。
「……ありがたく思います。ただ、これらの品に“祈り”は宿っていますか?」
アイゼンハワード(一瞬言葉を詰まらせて)
「……それは、俺の心にある」
さっちゃん小声で突っ込む。
「え、それちょっとズレてるっスよ。モノじゃなくて気持ちって話になってますよ?」
後攻はリスク
手渡したのは、小さな手作りのケーキと、自分で縫ったマリアの祈り用の白い布と手書きの旅の思い出のアルバム
「これ……不器用だけど、マリアがいつも空に祈ってる姿を見てて……作ったんだ」
マリアは布をそっと手に取り、目を細める。
「これは……温かいですね。祈りが通っている……ように感じます」
リスクは手作りの思い出ノートを渡した。
「マリアさん、俺には何もありません。だから……冒険の思い出ノートを作ってきました。
あなたが俺たちにしてくれたこと。あなたがいたから俺たちはここにいます」
さっちゃんは真顔になった。
「ちょ、こいつだけ低予算の3Gで感動路線突っ込んでる!!空気読めてる!空気吸ってる!呼吸してる!」
マリア(ノートを受け取り、しばらくページをめくる)
「――良いです。リスクさん。あなたの心に、神の御加護を」
(微笑)
リスク(感極まる)
「マリアん……!!」
「リスクの語尾キモッ!!」
さっちゃんは毒舌だ。
マリア(冷静)
「……ただし、誤解なさらないように。
これはあなたの愛に応えたのではありません。あなたの“真心”が、祈りに値したのです」
さっちゃん(大爆笑)
「出たーーーー!!恋愛フラグ全否定カウンター!!“好意”を“信仰”に変換する魔法ッス!!」
アルベルトはその様子を見守りながら
「……勝ち負けじゃないけど……気持ちは、ちゃんと届いたな」
マーリンは冷ややかな表情でうなずく。
「金じゃ動かないってことを、身をもって教わるとはな。アイゼンハワード」
アイゼンハワードは苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。
「……村人に一本取られたね。でも、それが聖女である彼女らしいってことか」
ケーキを囲んだ6人が静かに笑い合う。
マリアの表情には、珍しく微笑みが浮かんでいた。
「皆さん、ありがとう……“祈り”は、物に宿るものではありません。心が通った瞬間に生まれるものです」
「うっわー……聖女、詩的っスね……! うちのオカンとはレベルが違うっス……!」
さっちゃんがツッコんだ。
小さなケーキのロウソクが、静かに揺れた。
その火は、誰かを照らすための小さな祈り
温かく、確かに、そこにあった。
リスクがプレゼントとした思い出アルバムの裏にはには、手書きのメッセージ「今年1年がマリアにとって素晴らしい年になりますように」祈りが書いてある。