第4話 佐々木小次郎、空振りが美しすぎる。
ある日、武蔵がグラウンドに戻ると
長身の男が、
バットを肩に乗せ、
風に髪をなびかせて立っていた。
細身。
無駄のない姿勢。
異様なまでの静けさ。
「……遅いぞ、武蔵」
武蔵の因縁のライバル、佐々木小次郎。
巌流島の亡霊。美を極めし剣。
武蔵は無言で睨み返す。
二人の間に、言葉は一切なかった。
燕返し、バッティングに応用される
「説明はいらん」
小次郎はそう言って、
バットを構えた。
構えが、美しい。
無駄がない。影すら整っている。
あまりの美しさに観客がざわつく。
「なんだあいつ……」
「モデルか?」
「野球やる人の立ち方じゃない」
投手が投げる。
フルスイング。
ブンッ!!
ブンッ!!
ブンッ!!
空振り三振。ワンアウト
だが。
その瞬間
観客、拍手。
「今の見た!?」
「空振りなのに綺麗!」
「芸術点高すぎる!」
審判、困惑。
「……ストライク?」
小次郎、涼しい顔。
「……今のは、 風を斬っただけだ」
なぜか動揺する相手投手
次の球。
投手、明らかに緊張。
(当たってない……のに……なんでこんなに怖い……!?)
投げる。
ブンッ!!
また空振り。
拍手、増える。
投手、汗だく。
「な、なんなんだよ!! 当たってねぇのに!!」
小次郎は静かにバットを戻す。
「……当てる必要があるのか?」
野球マネジャー 依織は核心をつく。
「ねえ」
「この人、美しいバットスイングなのに
当たらないってある意味、天才じゃない?」
武蔵、即答。
「結果が出ねぇ天才は、 ただの変人だ」
小次郎、ちらりと武蔵を見る。
「……相変わらず、 現実的だな」
無言の火花。
武蔵 対 小次郎、因縁再燃
守備につく小次郎。
動きが滑らかすぎる。
だが―
ボールは、グローブに
ギリギリ届かない。
ジャンプは完璧。
タイミングも完璧。
フォームも完璧。
結果は、ヒット。
観客、また拍手。
「惜しい!!」
「今のも美しい!!」
武蔵、叫ぶ。
「惜しいじゃねぇ!! 取れ!!」
小次郎は微笑む。
「美は、 常に一歩先にある」
武蔵、額に青筋。
“結果が出ない男”
打率、 ゼロ。
守備評価 ゼロ。
だが。
・空振りで拍手
・守備でため息
・立ってるだけで絵になる
試合後、
観客は口々に言った。
「今日の主役は小次郎だな」
「負けたけど、満足した」
「なんか良いもの見た」
依織は、ため息。
「……興行としては最強ね」
武蔵、頭を抱える。
「勝てねぇ主役なんて、いらねぇんだよ!!」
小次郎は夕焼けの中、
バットを肩に担ぎ、静かに言った。
「……武蔵」
「いつか、この一振りが“当たる”日が来る」
「その時こそ」
武蔵、即答。
「その前に、俺が終わらせる」
無言。
風が吹いた。
宮本武蔵と佐々木小次郎。
二人のライバル関係は、野球場でも終わっていなかった。
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佐々木小次郎は実在した?しない?
佐々木 小次郎は「実在した可能性は高いが、確実な史料はない人物」です。
つまり、
完全な創作とも言い切れない
しかし、宮本武蔵ほど史料が揃っている人物でもない
という、歴史と伝説の境界線にいる剣豪です。
実在を示す要素(「いた可能性が高い」理由)
名前が複数の史料に出てくる
江戸時代の武蔵伝記
『二天記』
『武公伝』
『小倉碑文』
各地の剣術流派の口伝・伝承
これらに「佐々木小次郎」あるいは「巌流小次郎」として登場します。
実在が疑われる理由(「確証がない」理由)
同時代の一次史料がほぼない
戸籍・家系図 → 不明
武家の公式記録 → ほぼ無し
書状・日記 → 見つかっていない
「本人が書いた/本人を同時代に記録した文書」がない
名前・出身・年齢がバラバラである。
史料ごとに違います。
佐々木小次郎 ・ 巌流小次郎 ・ 佐々木巌流
出身:越前/豊前/不明
年齢:18歳説〜40代説まで 一人の人物像が定まらない。
【結論】
宮本武蔵:実在確定
佐々木小次郎:「ほぼ実在だが、証明不能」




