第9話 デュエルAI不動産の撤退判断
雨上がりの朝、駅前の電光掲示板が
いつもより静かだった。
説明会で見慣れたモニターに、
無機質な文字が浮かぶ。
「最終判断を開始」
町の人は、集まらなかった。
勝ったとも、負けたとも、
言える空気じゃない。
AIは、最後まで感情を持たない。
「滞在時間:不安定」
「行動選択:非合理」
「収益構造:予測不能」
一行、結論が追加される。
「この町は、最適化に向かない」
理由は続く。
「採算が合わない」
「計画維持、困難」
「撤退を推奨」
それだけだった。
拍手は起きない。歓声もない。
ただ、椅子を引く音が
静かに響く。
駅前の完成予想図は、その日のうちに外された。
壁に残った色の差が、そこに“夢”が貼られていたことを
かすかに主張している。
商店街会長は、帽子を脱いで頭をかく。
「……助かった、のかな」
元八百屋の主人は、
空を見上げる。
「負けてもいないしな」
町は、守られたわけじゃない。
取り戻したわけでもない。
ただ、“選ばれなかった”。
夕方、コインパーキングに
三輪車が一台、ぽつんと停まる。
誰も注意しない。
流れマンは、その光景を見て、
いつもの場所に立っていた。
流れを止めた覚えはない。
流れを変えた覚えもない。
町が、自分の歩き方を
思い出しただけだ。
彼は、誰に向けるでもなく言った。
「最適じゃない町ほど、人は長く立ち止まる。」
風が吹き、古い看板が
かすかに鳴る。
AIは、ログを閉じ、町を去った。
残ったのは、遠回りな道と、
少しうるさい笑い声。
そして、それでいいと知っている
町の背中だった。




