第7話 AIの想定外
夕暮れの駅前。
新しい舗装は、まだ靴音に慣れていない。
ベンチはある。
照明も明るい。
防犯カメラは完璧だ。
だが、誰も座らない。
デュエルAI投資不動産のモニターに、
淡々と文字が並ぶ。
「売上推移:計画通り」
「回転率:想定以上」
「成功確率:99.1%」
一瞬、数値が揺れた。
「……異常検知」
「平均滞在時間、短縮傾向」
AIは首をかしげる概念を持たない。
ただ、ログを洗い直す。
人は来ている。
金も落ちている。
だが、“残らない”。
買い物を終えた足は、
すぐ駅へ向かう。
エスカレーターは上りだけ混む。
夜風が、空白になった商店街を抜けていく。
町は、儲かっていた。
だが、根を張る前に、
人は荷物をまとめるように去っていった。
流れマンは、新しくできたコインパーキングの端に立ち、
出入りする車を眺めている。
停める。
降りる。
用を済ます。
乗る。
そこに、“寄り道”はない。
町長が、商店街会長が、
小さくため息をつく。
「成功してるはずなんですがね……」
流れマンは、地面に映る人影が、
すぐ消えるのを見て言った。
「数が多いと、流れてるように見える」
少し間を置いて、続ける。
「でも、根づく流れは、立ち止まりから始まる」
風が吹く。
タワーマンションの影が、
ゆっくり伸びる。
AIは、“立ち止まり”を変数として持たない。
だが町は、静かに答えを出していた。
儲かる町から、住みたい町へ。
その分かれ道で、
人はもう、歩き始めている。
流れマンは、名乗らない。
ただ、去っていく背中と、
戻ってこない影を見送りながら、
こう呟いた。
「町は、通過点になるとき、いちばん静かに壊れる。」
AIの想定外は、今日もまた、
人の足音だった。




