第6話 流れを見せる男
流れマンは、何も壊さなかった。
何も叫ばなかった。何も行動しなかった。
横断幕も、拡声器も、拳を振り上げる理由も、
この町には、もう似合わないと知っていた。
彼は、ただ歩いた。
朝の商店街。パンの焼ける匂いの前で、
人が一瞬、足を緩める。
昼下がり。
自転車を押す主婦が、
文具店だった空き店舗の前で、
無意識に立ち止まる。
夕方。
影に覆われた通りの角で、
学生たちが、
意味のない話で笑っている。
流れマンは、それらをすべて、紙に書き留める。
数字じゃない。グラフでもない。
「ここで、立ち止まった」
「ここで、振り返った」
「ここで、笑った」
それだけだ。
町は、もう昔には戻らない。
八百屋は戻らず、喫茶店のドアも、
二度と開かない。
それでも、人は、同じ場所で、同じように迷う。
進むから、迷う。
変わるから、立ち止まる。
開発は、止まらない。
タワーマンションは建ち、ショッピングモールは、
便利な動線をつくる。
それは、間違いじゃない。
流れマンは、古い街灯の下で、
メモを閉じる。
「過去には戻れない」
「でも、流れは、作り直せる」
思い出を保存する町ではなく、
思い出が生まれ直す町へ。
流れマンが見ているのは、
懐かしさじゃない。
これから、人がどこで
“居たくなるか”。
影の中でも、風の通り道はある。
数字の隙間に、人の温度が残る。
彼は、それを“見せる”だけだ。
壊さず、叫ばず、否定もしない。
ただ、人が自然に流れる
その瞬間を。
流れマンは、過去を振り返らない。
未来の途中に立ち、
町の流れを、静かに指さしていた。




