表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/1099

第三話 アルさん魔獣になる。

黒光りする六頭立ての魔馬車が魔界の大地を滑るように走る。

そのスピードは暴走トラックの如く、しかし中は極めて快適。

馬たちは巨大で、うんこもデカい。道端のモンスターは片っ端から食べながら進むという、ある意味で究極のエコ設計だった。


たぶん魔界でもSDGs的なやつだ。


手綱を握るのは、ベビーサタンのさっちゃん。

小学生サイズの彼女だが、操縦技術は一流。


「さっちゃん、有能すぎるな……」


「わたしだって伊達に50歳やってないもーん!」

ベビーサタンさんでした。先輩チース

ただ、口が悪い。


「マリアさん、貧乏人リスクはそろそろ処分して、アル様に乗り換えましょう」


「処分って!?生ゴミか俺はッ!」

思わず叫んだ俺を無視して、アル様が優雅に微笑む。


「そうだマリア。君が望むもの、永遠の命と美しさ、魔力、地位、そして愛を与えられるのは。この私だけだ」


「やかましいわホストかよ!あと愛はおまけか!順番最後かよ!!」

俺の心の中のツッコミが止まらない。


馬車内ではそんな軽口が飛び交っていた。


…明日は、シスターマリアの誕生日。

何としても、こいつよりマリアが喜ぶプレゼントを渡さなければ……。


嫉妬と焦りで脳内がぐるぐるしていた、その時——。


突然。


――ッゴゴゴゴゴゴゴッ!!!


ドン!!


大地が唸る轟音とともに、魔馬車が急停止する。


「な、なんだ!?」

「お、おい馬ども止まんなよ! まだリスクの妄想タイムが続いてるんだぞ!」


車窓から見えるのは、2体の巨大な魔獣。


ひとつは、鋼の鬣を持つライオン型魔獣マイティコア。

もうひとつは、天光をまとう神獣 麒麟きりん


挿絵(By みてみん)


名前 :マイティコア

体力 : 5800

攻撃 : 3500

防御 : 999

素早さ:4000


この世界で巨大なライオンの頭に、悪魔の羽と毒針のついたサソリの尻尾を持つ。鋼のような毛並みと、紅蓮のような瞳が特徴。


名前 :麒麟きりん

体力 : 7000

攻撃 : 3800

防御 :999

素早さ: 3800


この世界で鹿に似た細身の体に黄金色の鱗、そして青白く発光する角。尾は龍のように長く、美しく揺れる。

一歩ごとに草花が芽吹くとされる伝説の生き物。



どちらも並のモンスターではない。しかも、魔馬たちが一歩も動こうとしない。

さすがにこの2体は食えないようだ。いや、食われる側になる可能性がある。


「アル様、あれやっちゃってください!」

さっちゃんがビシッと敬礼。


「うむ。任された」

とスッと立ち上がるアル様。


「よーし!出番だぜアルベルト!」

と俺の横で張り切る…アルベルト?!


「ちょっと待て、どっちのアル!?」


すると、アイゼンハワードが不機嫌に。

「勇者くん、アルは私に譲り給え。君はベルトだ」

リスクの勝手な命名に呆れる間もなく、アルは静かに馬車を降りる。


「よし、いくか……」


その目が、獣のように光った。


「まさか……アル様、魔獣化なさるつもりか!?」


詠唱が始まる。古代の魔語。圧倒的な魔力が地を揺らす。


「目覚めよ、古き獣よ……

闇よ、我が肉体を喰らい尽くせ。

王の血よ、魔獣の骨よ――

真の姿へと具現せよ……

《魔獣 ライカントロス》!」


「《ベヒモス・コード 第九式──サーベルタイガー顕現》!」


ドォォォォォン!!


黒い稲妻の中から姿を現したのは、

全長5メートルを超える、漆黒のサーベルタイガー。


鋭く湾曲した牙はまさに断罪の刃。

後脚の筋肉がはじけ、地面を一歩踏むごとに衝撃波が走る。


「ひ、ひいい……アルさん、えぐない!?」

「かっこいいけど、こわっ……!」


勇者一行は思わず距離をとった。

普段は紳士的なアルの姿はどこにもない。そこにあるのは――野獣の本能そのもの。


マイティコアが吼えるよりも早く、

サーベルタイガーと、なったアルが大地を滑るように走り出す。


挿絵(By みてみん)


「がうぉああああっ!!!!」


一閃。


マイティコアの鋼の前脚が宙に舞う。

返す爪で腹を裂き、続くキバで喉を食いちぎる。

残った麒麟も、電光石火の連撃を浴びて身動きが取れない。


アルは動きを止めない。

次の一撃、さらに次の一撃をたたきこむ。


まるで戦場で踊るような連続攻撃。


【パーティ全員のレベルが2上がった!】



その様子を馬車の奥でじっと見ていた黒魔術師マーリンは、冷ややかに言い放つ。


「これよねぇ……魔界の日常ってやつは」

「人が魔獣になってモンスター食いちぎって、祝日気分。やんなっちゃうわ」


「な、何を涼しい顔で……!!」


「……あたし、もう慣れたのよねぇ。魔獣化男子。モテんのよ、あれがまた」


魔獣化が終わるころ、血まみれのサーベルタイガーが、やがてアルの姿に戻っていった。


「ふぅ……これで、マリアの誕生日は無事に祝えそうだな」


「無事か!?どこが!? いや、でも……かっこよかった……悔しいけど」


「マリアさん、あれを見てもまだリスクにしますか?」

さっちゃんが余計な一言をいった。


「野生の王に、高貴な血を加えると…こうなるんだよ」


「やかましい!イケメン台詞禁止法発令したいわッ!」


心中で絶叫するリスクだったが、彼の決意はまだ折れていなかった。


「……絶対、俺の方が凄いプレゼントを用意してやる……!」


果たして明日のマリアの誕生日に、真の“魔界一”の贈り物を贈るのは誰か!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ