第4話 反対運動は流れない
集会所の長机に、白い紙が広げられていた。
《再開発反対署名》
ペンは何本もあるのに、
名前は、なかなか増えない。
集まっているのは、顔見知りばかりだった。
元八百屋の主人は、腕を組み、声を荒げる。
「俺の店は、この町で四十年だぞ」
元喫茶店の主人は、
灰皿を撫でる癖が抜けない。
「毎朝、同じ席に座る人がいたんだ」
元文房具屋の主人は、
署名用紙を叩いた。
「子どもがな、ここで鉛筆を選んだんだぞ!」
怒りは、まっすぐで、正しい。
けれど、入口の扉は、
一度も開かなかった。
若者は来ない。みな通り過ぎていく。
反対の声は、部屋の中で反響するだけだ。
流れマンは、壁際に立って、
全体を見ていた。
人の流れは、怒りを避ける。
怒りは、立ち止まらせるが、
進ませない。
流れマンは、静かに言った。
「……反対、やめませんか」
三人が、同時に振り向く。
「何言ってる」
「今さら引けるか」
「無責任なこというな!」
流れマンは、首を振る。
「引くんじゃない。向きを変えるんです」
沈黙。
「守りたいものを、先に見せましょう」
怒りの紙は、風に揺れた。
「人は、嫌な未来より、残したい今に動きます」
外では、夕暮れの足音が、
商店街を通り過ぎていった。
反対運動は、まだ流れていない。
でも、流れを変える芽が、
静かに生まれていた。




