第2話 「デュエルAI投資不動産」
集会所の蛍光灯は、少しだけ白すぎた。
椅子はきれいに並び、配られた資料は分厚い。
紙の匂いだけが、昔の会合の名残だった。
正面のスクリーンに、企業ロゴが映る。
デュエルAI投資不動産
― 都市最適化プロジェクト ―
スピーカーから流れる声は、
感情を持たない。
「本再開発計画により、地域価値は上昇します」
グラフが伸び、数字が踊る。
「成功確率、98.7%」
誰も拍手しなかった。
町長は、軽く咳払いをしてから、
うなずいた。
「……町のためになる話です」
でも、その手は、
机の端を強く掴んでいる。
商店街会長は、資料をめくるたび、
音を立てた。
「この道、夕方になると、
子どもが走るんですが」
AIは、一瞬の間もなく答える。
「歩行者動線は、安全基準を満たします」
質問は終わる。答えは終わらない。
流れマンは、後ろの壁にもたれ、
人の足元を見ていた。
誰も、椅子を引かない。
立ち上がらない。
帰りたいが、帰れない。
足先だけが、出口を向いている。
「感情は、合理性を阻害します」
AIの声が、部屋に落ちる。
流れマンは、小さく息を吐いた。
――流れは、
数字より先に、体に出る。
説明会が終わる。
拍手は、最後まで起きなかった。
人々は、資料を抱え、
静かに外へ流れていく。
誰も反対しない。
誰も賛成しない。
それが、一番不安な流れだった。




