第1話 「駅前にできた空白」
朝の駅前は、いつも少しだけ慌ただしい。
通学の子ども、新聞を小脇に抱えた会社員、
改札前で立ち話をする老人たち。
その流れの真ん中に、昔からの空き地があった。
舗装は割れ、
雑草が伸び、
ときどき縁台が置かれる場所。
夏は盆踊り、
秋はバザー、
冬は何もないけれど、
誰かが必ず立ち止まる場所だった。
その朝。
白い線が引かれ、
精算機が立ち、コインパーキングになっていた。
「……便利になったな」
誰かが言う。
確かにそうだ。
車は迷わず入り、すぐ出ていく。
けれど、誰も立ち止まらない。
流れマンは、改札を出て、
足を止めた。
人は、線に沿って歩く。
空を見ない。
話さない。
「流れが……切れてる」
昼前。
商店街会館に、
町の顔が集まった。
町長は、資料をめくりながら言う。
「町の発展のため、必要な変化です」
けれど声は、どこか落ち着かない。
商店街会長は、帽子を外し、
ぽつりと漏らした。
「昔はな……あの空き地で、
みんな用もなく立ってた」
「今は、用がある人しか来ない」
誰も反論しない。
夕方。
商店街は、
少し早くシャッターを下ろす。
車は出入りする。
音だけが残る。
流れマンは、精算機の影で、
人の足取りを見ていた。
速い。
まっすぐ。
戻らない。
――便利は、
流れを速くする。
でも、速すぎる流れは、
何も残さない。
駅前にできた空白は、
まだ誰にも気づかれないまま、
静かに広がっていた。




