第6話 「流れない素麺の謎」
夏の昼下がり。
町内会の公園は、年に一度の大仕事にざわついていた。
流し素麺である。
竹は昨日から組まれ、
水もちゃんと流れている。
なのに
「止まった!」
「まただ!」
「素麺が団子になってる!」
白い麺は途中で力尽き、
竹の継ぎ目に溜まって動かない。
町内騒然。
大人たちは首をひねり、
子どもたちは箸を握ったまま固まっている。
そこへ、流れマンが現れた。
彼は素麺を見ず、
子どもも見ず、
ただ、竹を見た。
ほんのわずか。
目を凝らさなければ分からない歪み。
昨日、誰かが腰掛けた跡だろう。
「水、多すぎます」
そう言って、
柄杓で少しだけ水を減らす。
竹を、ほんの数ミリ持ち上げる。
するり。
素麺は、何事もなかったように流れ出した。
「おおおおお!」
歓声。
拍手。
子どもたちの目が、きらきらと光る。
「神……?」
「流れの神……?」
流れマンは照れもせず、
ただ次の束を流した。
そのときだった。
「……今日は降りますね」
空は快晴。
雲ひとつない。
「またまたぁ」
「暑さでやられた?」
誰も信じない。
流れマンは、
屋台を見ていた。
焼きそばの手つきが、いつもより早い。
テントを張る人の結び目が、無意識に強い。
人が、空を見ずに動いている。
空気が、重い。
午後三時。
突然、風が変わる。
一滴。
二滴。
「え?」
次の瞬間、
空がひっくり返った。
大雨。
子どもたちは悲鳴を上げ、
大人たちは慌てて撤収。
素麺は流され、
夏は一瞬で終わった。
夕方。
雨はまだ降っている。
誰もいなくなった公園で、
流れマンは一人、提灯を外していた。
濡れた紙を丁寧に畳み、
竹を元の場所へ戻す。
誰にも言わない。
当たったことも、
予感していたことも。
空は、まだ泣いている。
流れを整える仕事は、
拍手のあるときばかりじゃない。
町は今日も、だれも気づかないまま、
ちゃんと夏を越えた。




