第二話 悪魔のモンスター 勇者アルベルト
巨大な金ピカ馬車に揺られながら、俺たちは魔界一のエリート大学がある町・バーバード郊外の、とある豪邸へと向かっていた。
「……着いたようだね。さあ、降りてごらん」
黒光りする6頭立ての魔馬車から優雅に降り立つのは、魔界の貴族アル様こと、
アイゼンハワード=ヴァル=デ・シュトラウス。
目の前には高さ20メートルの金の魔法門が立ちはだかる。
別荘の巨大な門の前で、ベビーサタンのさっちゃんが両手を広げて叫んだ。
「開けゴマ〜☆ ビビデバビデブー!!」
「……いや、魔法の呪文、適当すぎない?」
「センスよ、センス!おじさんにはわかんないか〜☆」
「俺まだ10代だが!?」
ベビーサタンのさっちゃんが、無邪気に魔法を唱える。
ズゴゴゴゴゴ……!!!
門が開いたとき、吹き抜ける魔風。空が少しだけ暗くなる。
「演出が完全にボス戦の導入だこれ……」
ピキィン――!と門が魔法で開く。
高級すぎる別荘の敷地内に足を踏み入れた瞬間、リスクがまず目にしたのは……
玄関までの道のりは石畳がずーっと続いてる。花壇には魔界フラワー、イルミネーションは24時間稼働。これ、毎日掃除するだけで村ひとつ雇えるぞ。
「金持ちンボンボンの極みだな……」
「このレベルで“ボンボン”って呼ぶの、もはや侮辱では?」
「……うそでしょ……ここ、ほんとに“別荘”!?」
「え、私の実家、たぶんこの庭より狭い……」
庭には噴水が3つ、なぜかファンタジー風温泉エリアがある。ペガサスもいる。
飛んでない。歩いてる。
「うちの村の全予算でもこの噴水1基つくれねぇ……」
「マリア、一緒に温泉入ろうか?」
「いいえ結構です。」
とアル様の提案を即断るシスターマリア
広大な庭園を進むと、まるで城のような建物が姿を現す。外壁には白金の装飾、空飛ぶシャンデリア(?)が空中に浮かび、入口には魔界植物が整然と並ぶ。
「な、なんて立派な……」
シスターマリアが目を見開く。
「まるで、おとぎ話の中に迷い込んだようです……」
うっとりと語るその姿が、清楚そのもの。
だが、その空気を破壊するように、でかい椅子からアル様が仁王立ちで現れた。
「よく来たな、勇者たちよ。我がもてなしを受けるがよい!」
「トイレに行ってもいいですか」
リスクはトイレを借りた。
「えっ、あれトイレ?……トイレ!? 8個あるじゃん!!」
「各方角に一個ずつ、中央にVIP用が二個、非常用で一個……あれ、あと一個は?」
「なんでそんなにトイレがあるの!?」
「マリアが急にお腹痛くなっても安心ということだ!」
「はいはいアル様、過保護すぎてキモいです」
と、さっちゃんにあっさりツッコまれる。
召喚獣のようなウェイターが運んできたのは、見たこともない超高級魔界料理。
ゴーストキャビアの前菜、ドラゴンスフレ、ユニコーンバターのオムレツ――
「こ、これが……貴族の本気……」
「はぁ……このバター、口の中で優しくとけますね……」
(シスターマリアは清楚なのに食レポ上手い!)
「……幸せは金じゃない。でも金があれば少し幸せ」
と心の奥で小さく嫉妬する俺。
しかし俺は、気になることをぶつけた。
「アル様、ただでこんなに凄いもてなしをするつもりはないでしょう?」
「ふふ、聡いな村人よ。……悪魔王ガイアスを倒してくて、ありがとう、彼は不死身でねぇ私も倒すのに苦労しそうだった。」
「魔王を一緒に倒しそうってことですか?お断りします!」
「ちょっ!?即答!?」(by アルベルト)
「こいつは変態だ。マリアの純潔狙ってんだぞ!」
「うん、それはちょっとヤバいな」(by アルベルト)
「もー、男ってすぐそうやって騒ぐ〜」
さっちゃんが毒舌を吐く。
「嫉妬ダッサ!“純潔”とか古臭〜い。ってかリスクってさぁ、妹系が好みでしょ?マリアさん清楚系すぎてムリじゃない?」
「なぜ俺の趣味まで知ってる!?」
「観察よ。あと、だいたい当たってる☆」
場の空気が崩壊しかけたそのとき、アル様が高笑い。
「まあまあ、落ち着け。これを見よ――プレゼントだ!」
彼が取り出したのは、異様な黒光りを放つ5つのアイテム。
デーモンソード:振るたびに攻撃力がランダムで跳ね上がる(逆に0もあり)
デーモンシールド:防御率が0〜35%でランダムに変動
デーモンアーマー:時々HPが自動回復するが、防御力はギャンブル
デーモンヘルメット:知力+50%になる時もあれば−20%になることも
デーモンシューズ:移動速度がランダムで倍速にもなるし鈍足にもなる
(デーモンシリーズにより物理防御・魔法防御 0~+20%アップ)
「え、なにこのハイリスク装備……」
「ギャンブルに勝てば英雄、負ければ即死、それがロマンだろう?」(by アル様)
「あはは!似合う似合う!アルベルト、これで“魔界の勇者”ね☆」(by さっちゃん)
装備した瞬間――
ゴゴゴゴゴゴ……!
アルベルトの体から漆黒のオーラがあふれ出す。
「お、おおお……!なんか見た目が魔界のボスっぽくなった!?」
「これ、完全に裏切りフラグ立ってない!?」
「うるさいリスク!俺は勇者だ!善人だ!……たぶん!!」
そして、宴は賑やかに幕を閉じた。
だが俺たちはまだ知らなかった。
この出会いが、”マリアの“誕生日”という運命の日を、大きく狂わせることになるとは。