第一話 金持ちボンボン貴族
俺の名はリスク。
ただの村人だが、なぜか現在、魔界で指名手配犯である。
今日は、魔界きっての学都「魔王魔法大学の町・バーバード」に来ている。
目的は物資の補給。
同伴者は、美しくも慎ましいシスターマリア。この旅での清涼剤だ。
ちなみに、指名手配書で顔が出回りすぎている勇者アルベルトと魔界四天王の有名な黒魔導士マーリンお姉さま(301歳)は森の陰で待機中だ。
俺は地味だからギリセーフ。地味は正義。目立たなければ生き残れる。
町でマリアと並んで歩くだけで、まるで清楚系聖女と彼氏とのデート。
俺の中の幸せメーターが振り切れそうだった、そのとき―
\バサバサバサッ!!!/
上空から、羽をバタつかせながら降り立った。
ちっこい悪魔……いや、リボンをつけた幼女系サタン。
ピンクのワンピ、ツインテの角、ランドセル(?)背負い、
声は小学生、態度は女王様。
その名も、ベビーサタンのさっちゃん!!
「ねえねえねえ!ちょっとそこの村人ぉ!!」
「えっ俺!?」
「指名手配犯のゼロの能力者のリスクくん発見~~~!!
あ、あと清楚系のシスターマリアたんとラブラブ補給デート中!
あっはっはー!通報通報ぉ~♪」
ちょ、おま、それ……フルボイスで言うな!!
魔界の町の人々がザワつく中、空気を切り裂いてやって来たのは
\カツーン……カツーン……/
高そうな靴音。マントが風を切る音。
現れたのは、宝石ちりばめたマントに、レースのついたシャツ、
まるでヴァンパイアの伯爵。ヴィジュアル系バンドマンか歌劇団の男役みたいな美青年。
そう、彼こそ
「アイゼンハワード=ヴァル=デ・シュトラウス」
通称、血塗られた伯爵(通称アル)。
魔王軍の貴族にして、次期魔王の最有力候補である。
「ほう……これはこれは……」
アルがマリアを見て、うっとりと微笑む。
「この世に、これほどまで純潔な香りが残っていたとは……。」
「……え?」
「君のその澄んだ瞳、清らかな心、そして処女の血――至高にして芸術。
どうか我が屋敷に来てくれたまえ、君は今日から我が妾だ!」
「えっ、妾!?唐突!!」
「マリアは、俺の――」
「ふん、俺のなんだ?」
「……親しい友人です……(震え声)」
\ヨワッ!!!!!!/
さっちゃんが大爆笑しながら手を叩く。
「きゃはは!親しい“だけ”なんだー?かわいそー!
シスターマリアたん、こっちの貴族のほうが年収、顔面偏差値、血筋、性癖、全部Sランクだよ?
モブ村人にはもったいな~~い♪」
「おいちょっと毒舌が過ぎるぞ!」
「だってリスクくん。ただのフリーター村人だし~?
マリアたんを守るって顔じゃないし~?
え、お金もなくて弱いのに、それで彼女を守るって。え、もしかして脳内お花畑? わーん、無理無理☆絶対に無理☆」
「さっちゃん、村人をあまりいじめるな。彼には、彼の……いや、やはりなんでもない。マリアの瞳を見ていたほうがいい」
「ね~え、アル様~。また血の芸術始まったぁ~。
処女の血がどうのこうのって、最近ただの性癖扱いされてるよ?」
「失敬な。これは信念だ」
アイゼンハワード、堂々の変態宣言である。
「俺、絶対マリアを守るからな!
アル、お前みたいな金持ちボンボンに負けるもんか!」
「ふむ……では決闘でもするか?ルールは単純、マリアのハートを射止めた者が勝者だ」
「勝手にヒロイン扱いしないでください!」
マリア、とうとうキレる。
……こうして俺とマリアの平穏な物資補給は、
突然現れたマセガキベビーサタンと、
処女の血に狂う美青年貴族のせいで、めちゃくちゃにかき乱されたのだった。
これは、後に「バーバード異種交友事件」と呼ばれる出会いの始まりである
たぶん誰も呼ばないけどな!!!
俺たちは魔界貴族のアイゼンハワードの別荘へと招かれるのだった。