第15話 新しい仲間
次の町で俺とシスターマリアが朝の市場通りで野菜や果物を見ていると、向こうから妙にハイテンションな声が聞こえてきた。
「おーい!リスクーっ!やっと戻ったぜぇぇっ!」
振り返ると、勇者アルベルトが嬉しそうに美女と腕を組んでこちらに歩いてきた。
美しい銀髪と水色の瞳。長身で細身の大人の女性だった。
「紹介しよう、新しい仲間だ。彼女の名はマーリン。人魚族と人間のハーフで、黒魔導士だ。あと、趣味は占いなんだと!」
「はじめまして、マーリンです。よろしくね、ふふ…」
彼女の美脚が通行人の視線を釘付けにしているが、本人はまるで気にしていない。黒魔術師とセクシーは両立するのだ。
マーリンは大人の色気を感じさせる落ち着いた口調で微笑んだが、その目の奥に、一瞬だが冷たい影がよぎった気がした。
なんだこの違和感は、リスクは、全身に悪寒がはしる。
「……勇者さま。世界を救う旅の途中で、ナンパしてる暇があるとは知りませんでした」
シスターマリアが、声を押し殺してピシャリと告げた。表情は笑顔だったが、目が全然笑っていなかった。
(まずい、怒ってる……)
「ま、まぁまぁ……とりあえず落ち着いて聞いてくれ。実は、かなりまずい話があってな……」
俺はアルベルトに、反逆の戦士バルドルのことを話した。魔王軍の司令官「悪魔王ガイアス」の命令で、勇者討伐の任務を遂行中であること。そして、そのバルドルのステータス
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名前:バルドル(戦士)
レベル:50
体力:1800
攻撃:683
防御:329
素早さ:127
魔力:10
賢さ:9
運:135
この世界で話が長すぎて人間に嫌われたため魔王軍に鞍替えした反逆の戦士。
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「…………えっ?」
アルベルトの顔から一瞬で血の気が引いた。
「お前、今レベルいくつだ?」
「レベルは15……。攻撃力は、まぁ、100ちょい……」
「無理だな、勝てんわ」
俺はハッキリ言い切った。
「よって、作戦だ。お前は“行商人”として姿を変えて、国境を越える。バルドルがいるエリアから離脱する。」
「なるほどねぇ……いい判断だと思うわ、リスクさん。勝てないなら逃げるのも戦略のうちだわ。」
マーリンが艶やかに笑いながら、横から口を挟む。
「でも、そう簡単に“国境”を越えられるかしら?……この国の検問って、意外と厳しいのよ?」
「え……そうなのか?」
「ふふ……どうかしらね。私、占いで未来がちょっと見えるの。“誰か”が、“誰か”を殺してしまう未来が見えた気がしてね──ふふふ……」
その時、ほんの一瞬だけマーリンの瞳が紅く光った気がした。俺の背筋に、氷のような寒気が走る。
(こいつ……何か秘密を隠してるのでは)
「まぁまぁ、楽しくいきましょうよ、ね?リスクくん♪」
マーリンが俺の腕にそっと手を添える。
シスターマリアが、ギリギリと歯を食いしばる音が聞こえる。
「…………油断すると刺されますよ」
「え、俺が?」
「違います、“そっち”の女です。あの視線、気をつけてください」
俺の胃が痛くなってきた。
勇者よりも、仲間同士の内紛が先に起こりそうだった。
(ゼロの能力者は、シスターそれとも村人?どっちかしら)
魔族のマーリンの左右の瞳は、怪しく紅く光った。