第12話 神殿を荒らす悪い勇者
二重星の神殿。
それは氷と炎が交わる、聖と魔がせめぎ合う世界。
神殿内部は荘厳で、壁や柱には古代の文様がびっしりと刻まれている。左右対称に並んだ巨大な彫像。天井からは赤と青の結晶が交互に輝きを放ち、まるで夜空に浮かぶ星々のようだ。
「うわぁ……なんかここ、空気が違うね」
とフラちゃんが震える。
「マジ、異世界エステかってぐらい神聖じゃん」
ギャルのライラが、キラキラとした天井を見上げながら感心する。
「いやエステじゃなくて、完全に“神様の部屋”って感じだぞ」
俺が突っ込むと、
「まぁ、神んとこに殴り込みってコトよね☆」
と軽くピースサインをしてみせるライラ。いつもながらブレない。
そのとき、地響きとともに現れた。
ゴォォォォォンッ!!
バキバキバキッ!!
神殿の奥から炎と冷気をまとった異形の者が歩み出る。現れしモンスターは「神殿の魔人」と呼ばれる、巨大な甲冑に身を包んだ異形の兵士。その体には炎のような赤熱のラインと、氷のような霜の模様が交互に走っていた。そしてその後ろから現れたのは、氷と炎をまとった双頭の飛竜「神竜グレイファング」
名前 :神殿の魔人
体力 : 5000
攻撃 : 5500
防御 : 3000
素早さ:999 固有スキル 機械: 状態異常スキル不可
この世界で、神々の命によって造られた古代の戦闘兵器。全身を分厚い黒銀の装甲に覆われ、氷と炎のエネルギー炉を左右の腕に内蔵している。内部に人間の魂が封印されており、神殿に侵入した者を敵と認識して自動で起動する。
名前 :神竜グレイファング
体力 : 9000
攻撃 : 6500
防御 : 2400
素早さ:3000 固有スキル ドラゴン: 状態異常スキル不可
この世界で、頭部が2つあり、右が炎、左が氷の魔力を司る。知能は非常に高く、人間の言葉を理解しているが喋ることはない。
元は天界に棲む神竜であったが、下界に落とされ、神殿の番人としてその怒りと誇りを燃やし続けている。
その姿は圧巻だった。
右の頭部は赤き炎をまとい、左の頭部は蒼き冷気を吐く。
その翼の一振りで、周囲の空間が歪むほどの圧。
「ふぅん、燃えてきたァ~☆」
とライラはにやりと笑い、ギャル弓を構える。
「アルベルト!魔人は任せた!俺は神竜を受け持つ!」
「了解!さっさと終わらせて伝説になってやる!」
アルベルトは双剣を構え、魔人に飛びかかった。
フラちゃんも拳を握りしめる。
「怖いけど……ライラと一緒なら、おれ、やれるっ!」
マリアが祈りの言葉を紡ぎ始める。
「――魂の安寧をもたらす光、呪いを鎮める鎮魂の輝き――」
空気が震える。空間が張り詰める。
「我が祈りと共に降り注げ……
《ルクス・レクイエム》!!」
天井が割れ、巨大な教会が黄金と白銀の輝きを放ちながら降臨する。
塔の鐘がゴォォォンと鳴り響き、荘厳な聖歌が空間を満たした。
重厚な鐘の音が響き渡る。
その音は空間を震わせ、魂にまで届くような響きだった。
透明感のあるソプラノ。荘厳なバスの重低音。
それはまるで“天の式典”。
ゴォォォォォン……ドォォォォォン……
ゴォォォォォン……ドォォォォォン……
「ぎゃああああああ!?!?!?!?」(魔族)
突然フラちゃんが頭を抱えて叫ぶ。
「ご、ごめん!ごめんなさい!」
シスターマリアが慌ててフラちゃんの耳をふさぐ。
「うっさいうっさいマジで!!耳が死ぬッ!!」(魔族)
マーリンが魔族耳を押さえながら転がり回る。
「処す 処す マリアを処す……」(魔族)
ライラが恐ろしいギャル語で呪詛を吐く。
シスターマリアのすることは、いつだって正しい....とは限らない。人間だもの魔族は大変だ。
聖なる神竜には効いてないが、魔族の神殿の魔人には効果抜群だ!
「ぎぃぃぃやあああああああ!!」
魔人が頭を抱えてのたうちまわる。
「兜が……外れた……!?」
俺たちが目にしたのは――
ピカピカに輝く、ツルツルのハゲ頭。
「ハゲてるとかどうでもいいけど!いっくぞおおお!!」
アルベルトが叫ぶ!
「《双影斬ッ!!》」
クロスした双剣が閃光を生み、ハゲ頭を真っ二つに――
ズバァァァァァァァァン!!
神殿の魔人、撃破!!
だがまだ、終わらない。
「グオォォォォアアアアアアアアアア!!」
神竜グレイファングが二つの頭から、同時にブレスを放つ!
「炎!冷気!あったかい!つめたい!どっちやねんッ!!」
俺は叫びながら、伝説の盾と鎧と兜でブレスを受け止めた。
「ぬるま湯かよ!!」
俺は自分にツッコんだが誰も笑わないし聞いてない。
黒魔術師マーリンの杖が黒き光を放ち、空間に闇の波紋が広がる。
「哀れなる命の灯火よ、お前たちの鼓動は、もはや“その時”を迎えている。
眠れ、痛みと共に。咲け、死の薔薇よ……血に染まりて、闇に微笑め。
《ブラックロザリア!!》」
神竜の周囲に、黒いバラが満開に咲き乱れる。
「グルルルアアアアアアッ!!」
棘は心臓を穿ち、真っ黒な血を吸って咲き誇る。
バラは、彼の命を吸い尽くし、妖しく笑ったように――散った。苦悶の咆哮をあげたあと、神竜グレイファングが力尽きた。
【パーティ全員のレベルが1上がった!】
――沈黙。
俺は静かに、倒れた神竜の鱗やキバを集める。
「ごめんなさい、神竜様……武器と防具の素材に使わせていただきます。悪いのはあの黒魔女です。」
「ひどぉ……!」
とマーリンが答えた。
「ほんと、わたしの祈り、みんなの耳に良くなかったかな……」
シスターマリアがみんなに謝った。魔族が半分のパーティーだから仕方ない。
「そりゃあ、良くなかったよ。鼓膜のレクイエムだよ」
とマーリンがツッコむ。
「けど……倒せたからヨシッ☆」
とライラがにこっと笑って親指を立てた。
こうして俺たちは、二重星の神殿に眠る神々の魂を解放した。
……メイビー(たぶん、ちゃんと。)