プロローグ さっちゃん料理できないけど調理師の料理専門学校へ
私は料理ができない。
焼けば炭になるし、煮れば蒸発するし、
目玉焼きは“第七の形態”と呼ばれる未知の物体に変化する。
それでも私は教師になった。
そして今日、新たな赴任先が決まった。
魔界調理師専門学校。
よりによって「料理のプロ」を育てる学校である。
いや待って。私は料理できないんだけど!?
前の学校で“愛情指導の鬼”と呼ばれた実績が、なぜか料理分野に誤爆したらしい。
黒い雲に覆われた空。
そこにひそむ巨大な影の中から、校門がゆっくりと現れる。
魔界調理師専門学校 (デビル・クッキング・アカデミー)
入口の看板には、何故かホットプレートが燃えながら刺さっていた。
そのホットプレート、まだジュウジュウ言ってる。
私は震える手で門をくぐる。
すると、巨大なラーメンどんぶりがズルン、と地面から浮上した。
「ようこそ! 我が校へ!」
どんぶりの中から出てきたのは、
湯気と共に現れた謎の生物、校長 ラーメンモン だった。
チャーシューを肩パッドのように装備し、
メンマが背中に刺さっている。
ラーメンモン
「新任教師・さっちゃん先生、歓迎するでススス!」
さっちゃん
「……す、すごくスープの匂いしますね……!」
ラーメンモン
「我が校は、魔界随一の“破壊料理”の名門校!
味より破壊力、見栄えより爆発だ!!」
言った瞬間、校舎の奥で
ドォン!!!
と大爆発。
天井からカラフルなクリームが降ってくる。
ラーメンモン
「おっと、今日のケーキ実技は順調のようでス」
さっちゃん
(何が順調なの!?)
さらに、教室の前を通ると
火山のように噴火するカレー鍋、
氷山のように凍りつくシチュー、
勝手に歩き出すラザニアなどカオスな料理が続々と生まれている。
魔界生徒
「先生、見てください! 今日のケーキ、反抗期になりました!」
(ケーキが逃走している)
混乱の中、私は胸に手を当て、無意識に叫んでいた。
さっちゃん
「料理は愛情です!!!」
魔界生徒と教師
「は? 」
魔界に、奇妙な沈黙が落ちる。
ラーメンモンはスープ色の目を細めた。
ラーメンモン
「……ほう。
“愛情”という調味料を持ち込むとは、前代未聞でス」
さっちゃん
「えっ!? ちょっと待って!?
私、ほんとは料理できないんですが!!」
ラーメンモン
「問題なし!
魔界では“心の迷い”も“恐怖”も最高のスパイス!
料理できなくても教えられるでスス!!」
いやいやいや、どういう理屈!?
しかし、もう後に引けない。
こうして
料理できない教師さっちゃん の
破壊料理と愛情の戦いが、今始まろうとしていた。




