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【ランキング12位達成】 累計57万8千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
「アイゼンハワード最後の旅7 ― 哀愁のハモンドは鳴り止まない」

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第6話  第9ホールの女

地下都市エコーアーカイブの中心

封鎖され、誰も辿り着けなかった《第9ホール》。


そこは、

音が“息をしている”ような空間だった。


壁に触れれば、

微かに脈打つ振動が返ってくる。


リュカは震える声で言う。


「……ホールが、生きてるみたいだ」


ルアーナは記録装置を回しながら周囲を分析する。


「音の残響が常識外れ。

人工じゃない……“魔法で作られた都市”よ、これ」


アイゼンは無言で前に進む。

彼の視線の先――


薄い霧の中に、

ひとりの女が立っていた。


長い黒髪。

白い研究服。

手には壊れたバイオリンのネック。


その目は、ずっと前から

彼らが来るのを待っていたように静かだった。



「やっと来たのね……アイゼンハワード」


女は静かな呼吸の間に名を告げた。


ルアーナが驚きの声を上げる。


「誰……? どうしてここに?」


女はバイオリンのネックを胸に抱え、ゆっくりと微笑む。


「私はロザンナ・グレイン。

キャサリーと同じ

“音律魔導”の研究者よ」


アイゼンが眉をひそめた。


「ロザンナ?

あの頑固で人嫌いのロザンナか。

あいつ……まだ生きてたのか」


ロザンナは乾いた笑みを返した。


「ええ、運だけはね。

キャサリーとは最近、共同研究をしていたの」


ルアーナが身を乗り出す。


「キャサリーは……どうして死んだの?」


その瞬間、

ロザンナの瞳がわずかに揺れた。


「――狙われたのよ。

“音を喰う怪物”に」


ホール全体が、

その言葉に反応したように震えた。


レイヴが珍しく険しい顔で口を開く。


「怪物……? それは生物か、魔物か?」


ロザンナは、ゆっくりと頭を振った。


「どちらでもない。

もっと抽象的で……もっと恐ろしいものよ」


彼女は壊れたバイオリンの指板を撫でる。


「4人の音楽家が行方不明になっているわよね。

彼らは皆、ある共通点を持っていた」


「共通点?」

リュカが聞く。


ロザンナは答えた。


「キャサリーの“新曲”に関わった音楽家たちよ」


その瞬間――

第9ホールの天井が低く唸り始め、

空気がざわりと凍り付く。


レイヴは足元の影を睨んだ。


「……魂の痕跡が薄すぎると思った。

まるで、“音そのもの”に吸われたみたいに」


ロザンナが頷く。


「その通り。

ここに存在する“怪物”は――

音と魂を同時に喰らう存在よ」


アイゼンは一歩、ロザンナに近づく。


「ロザンナ。

キャサリーの死は……偶然じゃないんだな?」


ロザンナは目を閉じて言った。


「ええ……間違いなく。

キャサリーの死と4人の失踪は、同一犯によるものよ。

そしてその犯人は今も、この第9ホールの“どこか”に潜んでいる」


リュカが息を飲む。


ルアーナは拳を握りしめる。


レイヴは沈黙し、影だけが揺れていた。


そしてアイゼンハワードは、

静かに、しかし決定的な声で呟いた。


「……キャサリー、お前はやっぱり“逃げなかった”んだな。

真実に、正面から向かってやられた」


ホールに再び

壊れたハモンドの

哀愁の旋律が鳴り響いた。


まるで、

「続きを見つけて」 と告げるように。


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