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【ランキング12位達成】 累計58万9千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
「アイゼンハワード最後の旅7 ― 哀愁のハモンドは鳴り止まない」

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第1話 キャサリーの最期の音

北方の港町レムノン

潮風に混じって、どこか焦げた木の匂いが漂う夜。


古いジャズバー「ハモンド・クラブ」

その奥に置かれた、今は誰も触れない古いハモンドオルガン。


その鍵盤が、

キャサリー・レイモンドの死の数秒前に、ひとりでに泣き叫んだ。


そう証言したのは、店のマスターと酔いどれた常連客たちだった。


しかしアイゼンは一瞥しただけで否定する。


「……デタラメだ。

あのキャサリーが、あんな“つまらねえ死に方”するわけがない」


目は怒っていない。

悲しんでもいない。


ただ、氷の底のように静かだった。


ルアーナが眉をひそめる。


「アイゼン、そんな言い方……元恋人なんでしょ?」


アイゼンは短く笑った。


「だからだよ。

あいつは死ぬときでさえ、美しく、面倒で、ドラマチックな女だった」


リュカはそっとハモンドオルガンに触れようとして、

レイヴに肩を掴まれ止められる。


「触るな、坊主。魂の残滓ってのは、時に噛みつく」


薄笑いの中に、ほんのわずかに真剣さが混ざる。


夜霧の中で、

アイゼンはふと遠い記憶に沈んだ。



◇◇◇



まだ若かった頃。

孫のカズヤと共に、

世界を駆け回り、怪事件を解き明かしていた日々。


カズヤが笑って言っていた。


『アルおじ、事件の匂いがすると急に若返るよね?』


あの声も、あの顔も、今は霧の向こうだ。


「キャサリー……カズヤ……

どうして、みんな俺より先にいなくなるんだ」


その呟きは、港風にさらわれて誰にも届かない。



深夜。事件現場の調査中。


誰も触れていないのに、

ハモンドオルガンが突然低く唸った。


「ぶぅぅぅぅぅ……」


次第に音は震え、

叫び声のように歪んでいく。


ルアーナは背筋を凍らせ白い息を吐く。


「これ……キャサリーさんの“死の瞬間”と同じ……?」


死神レイヴの声が低く響く。


「いや、違う。

これはな“呼んでる”んだよ。

アイゼン、お前をなイヒヒヒ」


アイゼンはゆっくりとオルガンに歩み寄り、

その古い木枠に手を置く。


「キャサリー……

何を残した?

何を伝えようとした?」


その瞬間。


鍵盤がひとつだけ、淡く光った。


アイゼンの顔に、わずかな痛みが走る。


「……ああ、そうか。

最初の手がかりは“音”か」


アイゼンハワード探偵が、静かに動き出す。

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