第7話 地獄の湯に魔手迫る。
魔界にそびえる赤黒き火山群
その裾野に広がる、湯けむりの楽園「地獄の湯」。
《デッドエンド煌号》は真っ黒な煙を巻き上げながら、ギラギラと光る派手なボディで到着した。
「ついに着いたか……地獄の湯」
俺はサングラスを直しながら、肩からカメラを提げている。なぜか?
俺たちは今、有名な魔族を殺しまくっている犯罪の指名手配犯だからだ。魔界では賞金首扱い。
だから――
「……これは映画の撮影です!我々は俳優とスタッフです!勇者っぽく見えても演技です!」
「カットォ〜!リスク監督、次は温泉街のロケですか〜?」
ライラがそれっぽい演出でノってくれる。
「……あれ?あれって勇者じゃね?」
「マジ?本人じゃね?」
温泉街の客たちがざわつき出すが、
「違いますぅ〜!撮影ですぅ〜〜〜!!」
ライラの圧倒的“観光ギャルパワー”で何とか乗り切る。
俺はカメラマンのフリをしながら、魔界の温泉まんじゅうをパクリ。
「うまい……!!これは土産で人間達にも売れる……!
「……これで資金が稼げるな。土産物ルートを押さえれば……」
魔族視点で商売のことを考え始める自分に、ちょっと引いた。
その間にフラちゃんが宿の手続きを済ませてくれていた。
「リスクさん、宿とったよ〜!鬼灯館ってところ。支配人の魔人は超いい魔人だったよ!」
「泊ってもイイヨ〜。お金も払って……もらわなくてもイイヨ〜♪」
「……いや、それはこっちが不安になるヤツ……」
しかし、束の間の安堵もつかの間――
悪魔王ガイアス。
反逆のバルドルは力だけの頭は小学生のバカだったが、ガイアスは違う。
冷静で狡猾。すでに俺たちの行動を読んでいるかもしれない。
「……こんな場所で、のんびりしてて大丈夫か?」
「リスクさん……今日は、休みましょう」
振り返ると、シスターマリアがタオルを抱えて微笑んでいた。
その清らかすぎる表情に、俺の中の不安が、少し溶けた気がした。
【鬼灯館の混浴露天風呂】
「地獄なのに……極楽、極楽〜〜〜!」
湯船の岩に頭をもたせかけ、全裸でご満悦の男がひとり。
勇者アルベルトだ。
「ふふ……魔界の湯、思ったより悪くないわね」
「マーリン……あんた、混浴でそのポーズは犯罪だぞ……」
マーリンの美脚とセクシー姿と温泉は両立すると俺は思った。
「混浴とは……これは神への背信では……でもぉ……」
シスターマリアがほのかに頬を染めている。罪深い。
「えへへ〜!ここの泥パック、マジで肌つるつるになる〜!」
ライラはガイド帽をタオルに替えて、美容に全力。
「ここのお湯、魔力が回復するな。フラちゃん、どう?」
「うん、魂の芯まで、あったかいよ……うっとり……」
湯けむりがゆらゆらと漂う中、岩風呂に肩まで浸かった俺とマリア。
「……マリア、綺麗だ」
「修道院ではシャワーばかりでしたから……こんなに温かいのは、初めてかもしれません」
湯気越しに見るマリアの笑顔。
この一瞬が永遠なら、どれほど幸せか……と思ったそのとき。
ゴオォォォォォオオオオォッッ!!!
突如、山の向こうに赤い閃光――
そして、響き渡る不吉な咆哮!!
「な、なんだ!?地鳴り……いや、これは魔力反応……!!」
湯けむりの空が真紅に染まる――
「リスクさ〜ん!来たよぉー!敵!!! イイネェー」
フラちゃんの声が木霊する。
「また!?せめて脱衣所に戻る時間をくれええ!!」
マグマ隊士とヘルドラゴンの襲来が迫っている。
温泉はもはや安息の地ではなくなる―だが、俺たちはここに来た意味を見失わない。
「行こう、マリア。俺たちの戦いは……どこにいても、続いてるんだ」
「ええ、リスクさん……闘いは服を着てからにしましょう!」
魔界の温泉地から始まる、新たなバトルが、今、幕を開ける!




