第10話 天空図書館での王冠の破片争奪戦
世界の危機、仲間の亀裂、敵の狂気。
すべてが巨大な渦となって天へと向かう。
舞台は、雲より高く浮かぶ“天空図書館”。
膨大な魔導書が宙に漂い、
知識そのものが迷宮となった禁断の地。
そこで三勢力が激突する。
天空図書館へ王冠の破片を奪われたまま、
アイゼン、ルアーナ、リュカ、レイヴは
雲上の階段を登る。
しかし空気は重く、以前のような連帯はない。
リュカはアイゼンを見ようとしない。
ルアーナは何か言いたげに唇をかむ。
レイヴだけがイヒヒと笑い、微妙な空気を漂わせる。
アイゼンは沈黙していた。
肩にはまだリュカに刺された傷が生々しく残り、
その痛みが彼の心の痛みを象徴しているようだった。
空に浮かぶ大図書迷宮
扉が開いた瞬間、
無数の魔導書が“翼のように”舞い、
床も天井も分からぬ空間が広がる。
ルアーナ
「ここに……王冠の起源の書があるはず……
敵が求めているのは、破片だけじゃない。
“作り方”そのものよ」
アイゼン
「破片の復元……
それをやられたら、世界の崩壊速度は一気に加速する」
その時だった。
ブラックセイバー襲来
黒い羽根のような刃が、
空間を縫うように飛び込んできた。
ヴァルゴ
「……よう。先生ご一行。
ここで死ぬ準備はできてるか?」
暗殺者ヴァルゴが本棚の影から現れ、
オルフィウスが魔導書を操り、
リディアが高所から笑みを浮かべて降り立つ。
リディア
「王冠の破片は“頂戴”したわ。
あと一つだけ。
あなたたちに渡す気はさらさらない」
三人は空中をステップするように移動し、
まるで図書館の空そのものを支配していた。
そこへ
烈風とともに天井が砕ける。
氷の翼を広げ、
血に染まった王衣を引きずりながら
スカーレット陛下が降臨した。
彼女の顔は青白く、
意識が途切れそうなほどの呪いを受けているが
その瞳だけは酷く鋭く、赤く燃えていた。
スカーレット
「破片を返しなさい……
全部……全部……私のものよ……!」
オルフィウス
「ヒッ……! バケモノめ!!
おい、距離を取れ!! 呪いが強すぎる!!」
スカーレットは狂気と悲しみの間で揺れ、
味方さえ攻撃しかねない状態。
天空図書館は、
三勢力の殺気で空気が震えていた。
オルフィウスが奪った王冠の破片を握り、
フロアを全速力で走り抜ける。
ヴァルゴ
「オルフィウス! 離れろ!
アイツが狙ってる!!」
後ろから氷の破片を撒き散らして
スカーレットが迫る。
その後ろを
ルアーナとリュカが追い、
さらにアイゼンが古文書を手に走る。
レイヴ
「イヒヒヒ! 三つ巴どころじゃないねぇ!
“全員敵”の大追跡だよ!」
図書館の本棚が次々と魔術を発動し、
迷宮そのものが暴れ出す。
空中書架が回転し、
天井がひっくり返り、
ページの竜巻が空を裂く。
リュカ
「行かせるかァァァ!!」
氷の鎖を切り裂き、
オルフィウスへ飛びかかる。
がヴァルゴが割って入る。
ヴァルゴ
「相手間違ってんだよ、小僧」
リュカ
「どけぇぇっ!!」
激突する二人。
氷の刃と暗殺拳が火花を散らす。
アイゼンは、
崩れ落ちそうなスカーレットを見て一瞬ためらう。
アイゼン
(……この少女を助ければ、破片を奪い返せるかもしれん。
だが――仲間を危険に晒すことにもなる)
ルアーナが叫ぶ。
「アイゼン先生ッ!! 早く!!
破片を奪われたら世界は終わるのよ!!」
リュカも怒鳴る。
「迷ってる場合かよ!!」
その言葉が
アイゼンの胸を深くえぐった。
『迷ってる場合かよ』
それはかつて、
スカーレットに言えなかった言葉だった。
アイゼン
「……やるしか、ないッ!!」
老人は杖を構え、
スカーレットの進路を止める。
ルアーナ
「捕まえた……!! あと少し!!」
リディア
「悪いけど、それは私たちの勝利よ。お嬢さん」
リディアが真後ろに現れ、
ルアーナの装置を斬り壊す。
その瞬間、
オルフィウスの手の中で破片が共鳴し
ズォォォォォォン!!!!
巨大な光柱となり、
天空図書館の中心へ転送された。
ブラックセイバーが勝利の笑いをあげる。
ヴァルゴ
「破片はいただいた。
ま、また会おうぜ、アイゼン先生」
三人は影のように消えた。
氷の床に膝をつくアイゼン。
リュカ
「俺たち……負けたのか?」
ルアーナ
「これで……王冠はほぼ完成する……
世界が……終わる……」
リュカはアイゼンを睨む。
「なんで……スカーレットを止めようとしてた?
あいつを助ける必要なんて……あんのかよ?」
アイゼンは答えない。
その沈黙が、
四人の心の距離を決定的に広げていく。
死神レイヴだけが
薄く笑った。
「イヒヒ……
いいねぇ、絶望ってやつは」
天空図書館の床にひびが入り、
世界の終わりを示すように
空が赤く染まり始めた。




