第8話 氷海の寺院での決戦 、 友情の断裂
氷海の暴風が吹き荒れる中、
氷山に突き刺さる“逆さ寺院”が影の巨人のように佇む。
遠くで、リュカの悲鳴が木霊した。
「アイゼンッ!! 助けて――!!」
そして氷の門が閉じ、声は消えた。
スカーレット陛下は囁く。
「助けに来ないね……君は、ずっと利用されていただけだよ」
リュカの心が凍りはじめる。
寺院の外。
氷の風を切って、ルアーナが叫ぶ。
「アイゼン! すぐ行かないと死ぬわよ!!」
アイゼンは歯を食いしばり、拳を握った。
「行きたいが……ッ! しかし」
足下の雪を蹴り飛ばす。
「王冠の“第四の欠片”が、ここに現れるのも確定したんだ……!
いま行けば、破片がスカーレットかブラックセイバーに奪われる……
それだけは絶対に防がないと……!」
ルアーナ
「はあ!? どっちが大事なのよ!」
アイゼン
「……選べないんだよ……!!
リュカを助けに行けば、世界が滅ぶ。
ここで欠片を守れば……リュカが……ッ!」
拳が震える。
雪が握りつぶされるほどに。
死神レイヴが愉快そうに笑う。
「イヒヒヒ……究極の二択だねぇアイゼン。
“世界”を取るか、“仲間”を取るか。
英雄さまは、いつも地獄に落ちる」
ルアーナは涙を流し、アイゼンの胸を殴りつける。
「あの子はずっとあなたを信じてきたのよッ!!
あなたも、私も、ずっと――!
それなのに……見捨てるの!?」
アイゼン
「見捨てない……ッ!
でも……分裂するわけには……」
ルアーナ
「私は行く! 一人でもリュカを助ける!!」
ルアーナが駆け出し、アイゼンが叫ぶ。
「ルアーナ――!!
戻れッ!!」
しかし彼女は止まらない。
氷の地面に黒い影が突き刺さる。
ヴァルゴ
「よぉ、悩める英雄さんよ。
二択どころか。もう“一択”だぜ?」
オルフィウス
「王冠の第四の欠片……
本当に、この地に目覚めるとはな」
リディア
「仲間を助けに行く余裕なんて、
あると思ってるのかしら?」
三人がアイゼンを包囲する。
ルアーナとリュカの顔が脳裏で交差する。
スカーレット陛下の影も、寺院の上で微笑んでいる。
アイゼンは本当に、どちらを選ぶのか?
氷海の風は答えをくれない。




