第6話 ブラックセイバー暗黒追跡戦(ダーク・チェイス)
荒野の要塞を出て間もなく
沈む夕日を背に、四人は王冠の破片を収納したケースを馬車に積み込み、砂原の街道を進んでいた。
だが、その静寂は唐突に破られる。
荒野の向こうから砂煙が上がる。
エンジン音の代わりに魔力で駆動する漆黒のホバーバイクが三台。
刃のような光跡を残しながら迫ってくる。
ブラックセイバー王冠を狙う敵組織の一員である。冷たい眼光が、四人を追う。
ヴァルゴ:闇の殺し屋、刃物と暗殺術の達人。
オルフィウス:邪術師、王冠の呪力を利用して世界を支配しようと企む。
リディア:暗黒盗賊団の首領、冷酷非情に目的を遂行。
死神レイヴが口角を上げ、
「イヒヒヒッ……来た来た来たァ。追いかけっこのお時間だぜぇ、先生ぇ!」
アイゼンは目を細め、
「まさか本当に尾けてくるとはな……あの暗殺集団、しつこさはルパン並みだ」
バイクの先頭に立つのは─“闇の殺し屋”ヴァルゴ。
黒い刃を振り上げ、馬車の荷台めがけて跳び上がってきた。
「先生ッ!!」
リュカが叫ぶより早く、
ヴァルゴの刃がアイゼンの首元に迫る。
キィンッ!
アイゼンは杖で刃を受け止め、火花が飛ぶ。
しかし70代の身体に、この衝撃は重い。
膝が沈み、車輪が激しく揺れる。
「チッ……じじいの割に動くじゃねぇか」
「褒め言葉と受け取っておこう……!」
アイゼンは杖をひねり、
瞬時に地面へ魔法陣を展開。
激しい光がヴァルゴを吹き飛ばす。
しかし、後続の二人
邪術師オルフィウスと盗賊リディアが迫る。
砂嵐都市の近く、
ルアーナの恩師である老科学者・ドグラ博士が研究調査のため街道沿いへ出ていた。
「ルアーナ!無事か!」
博士が馬車に手を振った――その瞬間。
リディアが投げた暗黒の鎖が、
馬車の荷台を狙って一直線。
「危ない!!」
ルアーナが叫ぶ。
だが博士は振り返るのが一瞬遅れた。
鎖が博士の胸を貫き、
背後の岩壁へ叩きつけた。
「……あ……」
ドグラ博士の白衣が赤く染まり、
ゆっくりと崩れ落ちる。
ルアーナが絶叫する。
「いやっ………!博士……!!」
魔導式の馬車が急停止し、
アイゼンも衝撃で尻もちをつく。
リュカは泣き叫ぶルアーナを抱き寄せ、
死神レイヴでさえ笑い声を止め、目を伏せる。
ブラックセイバーの三人は、
王冠の破片を奪えなかったにもかかわらず撤退を始める。
リディアが舌なめずりして笑う。
「邪魔者が減れば、こっちの計画が進むのよ。じゃあね、坊やたち」
ホバーバイクは砂煙を残して消えた。
あたりには死と怒りのにおいだけが残る。
アイゼンはゆっくり博士のそばに膝をつき、
その冷たい手を握った。
「……すまん。守れなかった」
老いた肩が震えた。
彼は空虚に囁く。
「亡霊よ……
これは……これは本当に“お前の望んだ復讐”なのか……?」
風が吹き荒れ、廃墟の鐘が低く鳴る。
死神レイヴがぽつりと言う。
「怨念に触れた旅路は、必ず……誰かが死ぬんだよ、先生。イヒヒ……」
しかしその笑いは、どこまでも苦かった。
リュカは涙をこぼしながら、
「復讐……復讐の連鎖が、始まってしまうの……?」
ルアーナの手は血で染まり、震えていた。
その涙は、旅の方向を決定づけた。
ブラックセイバーを止める。
“血塗られた王冠”を悪の手に渡さない。
そして……これ以上、誰も死なせない。
日が沈み、闇がすべてを呑み込む。
物語は次の局面
“血塗られた王冠争奪・世界崩壊レース”へ突入する。




