第2話 スカーレットの影と、揺れる友情
月明かりが淡く廃城の廊下を照らす。
アイゼンハワード、杖をトントン鳴らしながら、後ろを振り返る。
「……俺が思ってたより、今回は長く面倒になりそうだな。」
渋い顔でぼやくアイゼンハワード。
ルアーナは眉をひそめ、顕微鏡と資料を胸に抱える。
「先生……亡霊って、科学的に証明できるわけじゃないんです。
幽霊なんて、脳の錯覚か気象現象のせいですよ。」
リュカは小さく息を吐き、目をそらしながら呟く。
「でも……あの声……あれ、本物かもしれない……」
小さな声に、廊下の影がちらりと揺れる。
「うんうん、怖いんだろ?でも、逃げるわけにもいかんイヒヒヒ。」
死神レイヴが肩をすくめ、ひそやかに笑う。
その声は、まるで廊下の影に溶け込むかのようだ。
暗がりの一角。
黒いマントに包まれた姿の亡霊のスカーレット陛下。
目だけが光を反射して、冷たい笑みを浮かべる。
「フフフ……あのじじいと子ども二人、そして死神か……
面白い。じっと観察していれば、自然と罠にかかるだろう。」
スカーレットはゆっくり体を隠しながら、廊下の端から端まで視線を送る。
その動きは、まるで猫が獲物を試すよう。
ルアーナは腕組みし、眉間にしわを寄せる。
「でも……先生、こんなの迷信に決まってる!
亡霊の復讐心なんて、科学でどうにでも説明できるんです!」
リュカは肩をすくめ、恐怖で声が震える。
「……でも、レイヴさんが言ってました。
“亡霊の復讐心は、いつも血の匂いを引き寄せる”って……」
レイヴは笑いながら、月明かりの影に溶ける。
「そう、血の匂い……そして裏切りの匂いもイヒヒヒ。」
アイゼン先生は杖を握り直し、深くため息。
「……まったく、俺の最後の冒険、最初から怪物づくしか。
でも、子どもたちを守るのも、じじいの役目だな。」
ルアーナは目を細め、リュカを見る。
リュカも小さく頷く。
二人の小さな決意が、廃城の影に光を射す。
スカーレットの黒い影は、まだ遠くから微笑んでいる。
だが今は、じっと彼らを観察し、機会をうかがっている・
その時、アイゼンハワードの耳にかすかな声が届く。かつて魔界と人間界を恐怖で支配したという王冠
ブラッディ・クラウンの伝承が、風のように囁かれる。
「その王冠は、かつて魔界と人間界の王たちを狂気へ堕とした。
国を焼き、文明を潰し、無数の魂を、笑いながら喰ったという……」
ルアーナは眉をひそめ、科学的に反論しようとするが、リュカはその場で足がすくむ。亡霊の警告と、王冠の恐ろしい伝承が重なり、現実の危険を想像せずにはいられなかった。
「亡霊の復讐心は、いつも血の匂いを引き寄せる……」
死神レイヴの声が背後で響く。イヒヒヒ。
廊下の影が揺れ、スカーレット陛下の冷たい瞳が遠くから彼らを見つめる。
「この王冠――手にした者は、狂気と破滅しか得られぬ」
アイゼンは深いため息をつき、杖を握り直す。
「……面倒な依頼だが、乗りかかった船だな。最後まで行くしかない」
ルアーナとリュカは、息をのみながらアイゼンを見つめる。師である彼が動くなら、自分たちも生き残るために行くしかない。
こうして、伝説の王冠を追い、世界の崩壊を防ぐための旅路が始まった。




