第八話 一騎打ち復讐の頂点
砂漠の夕陽が長く影を伸ばし、遺跡の奥から低い笑い声が漏れた。
敵幹部・ヴァルド
「よく来たな、アイゼンハワード。
ローレムの最期、思い出せるか?」
その声は、砂を噛むように冷たかった。
だがその冷たさは、アイゼンハワードの怒りに火を注ぐ燃料でしかない。
影の中で、一歩、また一歩。
足音もなく現れた男がいた。
夕陽を背に、コートを翻し、指を軽くくいっと上げる。
“余裕のあるポーズに似ているが、漂う空気は完全に別物。
明らかに。死神より冷たい殺気。
アイゼンハワード
「……待たせたな。
そろそろ“幕引き”をやらせてもらう」
ルアーナが息を呑み、リュカが拳を握りしめる。
死神シグルは
「おっ、これは死ぬやつイヒヒヒ」と楽しそうだ。
ヴァルドが魔導結晶を砕くと、地面が揺れ、魔獣じみた影が走る。
だがアイゼンハワードは微動だにしない。
ヴァルド
「ローレムは弱かった。感情に流され、守るものを間違えた」
その言葉に、アイゼンハワードの瞳が鋭く光る。
「……喋るな。
ローレムは弱くなんかない。
弱いのは仲間を売って、影に隠れたお前だ」
次の瞬間、二人の影が砂上で火花のように交差した。
魔力が弾け、砂が嵐のように舞い上がる。
ヴァルドの攻撃は鋭く、残虐で、感情のない刃のようだった。
しかしアイゼンハワードは、まるで全てを見切っているかのように回避する。
ルパン三世が銃弾をひらりと避けるような、軽やかで隙のない動き。
リュカが思わず呟く。
「……速い。これはもう、昔のアイゼンじゃない……」
死神シグルが肩を竦める。
「ローレムが死んだ“続き”を、アイゼンがやってるだけさ。イヒヒヒ……」
ヴァルドは最後の魔導刃を振り抜き、叫ぶ。
「俺たちの世界を変えるのは、力だ! 仲間など──」
アイゼンハワードはその言葉を遮るように前に出た。
アイゼンハワード
「黙れ」
その声は、砂漠の空気すら震わせるほど静かで重かった。
刹那、斬撃が閃光のように走り、ヴァルドは膝をつく。
「……馬鹿な……この私が……」
アイゼンハワードは目を閉じた。
「これは復讐じゃない。
ローレムと交わした──最後の約束だ」
ヴァルドは砂の上に崩れ落ち、夕陽の中で静かに消えていった。
ルアーナが駆け寄ろうとするが、アイゼンハワードは手で制す。
「……終わった。
でも……何も戻らないんだな」
影の中で、ただ風だけが答えた。
死神シグルがひょいと肩に乗る。
「仇を取っても、心は軽くならねえ。
でもよ……ローレムは喜んでるさ。アイゼンが立ってる限りな。イヒヒヒ」
その言葉に、初めてアイゼンハワードの眉がわずかに揺れた。
夕陽が完全に沈む。
その先に続くのは、復讐の終わりではなく
新たな真実の始まり。




