第六話 敵幹部の罠
砂嵐が吹き荒れる失われた遺跡都市。
アイゼンハワードたちが踏み入れた瞬間、静寂が裂けるように石壁が震えた。
「……来るぞ。ここは“奴ら”の巣だ」
アイゼンハワードが低く呟く。
その声は、ローレムを失って以来、どこか沈んだままだ。
床に刻まれた古い魔導線が光り、砂が波のように盛り上がる。
ドガァン!
砂の下から、魔導兵器が蜘蛛のような脚を伸ばして姿を現した。
「うわ、また変なの出たッ!」
ルアーナが悲鳴を上げる。
「落ち着け。脚の関節を狙えばいい」
リュカは冷静に突きを放ち、関節を一撃で破壊。
だが次の瞬間、天井の石像の目が赤く光り、無数の鋼糸が降り注いだ。
「ぎゃっ!鋼糸!? 髪が切れるんだけど!!」
ルアーナがしゃがみ込み、シグルがひょいっと抱えて跳ぶ。
「お前の髪なんぞ誰も狙ってないイヒヒヒ」
「うるさい!!」
シグルが壁に手を添えた瞬間、勘のように言った。
「この遺跡……全部、誰かに“見られてる”イヒヒヒ……嫌な気配だ」
その直後――岩壁が左右に割れ、巨大な石の檻がアイゼンハワードを囲い落とした。
「アイゼン!!」
ルアーナが叫ぶ。
檻の向こうから、金属質の声が響く。
『ようやく来たな、アイゼンハワード。
お前が解いた暗号は“罠そのもの”だったのだよ』
リュカが奥歯を噛む。
「暗号を仕掛けたのは……やはり“内部”の者か」
壁の一部が動き、仮面をつけた人物の映像が投影される。
仮面の下の輪郭
アイゼンハワードが思わず息を呑んだ。
「まさか……あの手の形……剣の持ち方……」
ローレムの親友だった騎士。
常に側にいた“あの男”の仕草だ。
胸に重く刺さる嫌な予感。
「……お前が、ローレムを殺したのか」
アイゼンの声は、砂より冷たかった。
仮面の人物は答えず、ただ嗤うように手を振り、幻影は消える。
「よし、やるか。アイゼンを助けるぞ!」
ルアーナが気合を入れた瞬間、
「もちろんイヒヒヒ。俺の出番だろ?」
死神シグルが檻の方に指を鳴らすと、
石の檻の隙間に“魂の糸”が入り込み、機構を停止させた。
「ヌルヌルさえしてなきゃ、俺は無敵イヒヒヒ」
「そんな弱点、ここで言うな!」
ルアーナがツッコミを入れながら跳び蹴りで罠のレバーを破壊。
リュカが瞬時に地図を把握し、壁画を押す。
「ここの遺跡は“重さ”で作動する。
ルアーナ、そこの石像に乗れ」
「ええっ!? 太ったって言いたいの!?」
「冷静にしろ」
石像が沈み込み、床の鋼糸がすべて収納された。
「助かった……」
アイゼンハワードが檻を抜け、仲間のもとへ戻る。
だが喜ぶ間もなく、遺跡の奥から低く響く声。
『来い。過去を暴きたくば』
それは“仮面の使い”からの招待状だった。
遺跡の出口に向かう途中、
アイゼンの脳裏にローレムの最期の笑顔が差し込む。
(ローレム……お前は何を知っていた?
本当に“事故”で死んだのか……)
シグルが珍しく真剣な声で言った。
「アイゼン……ローレムの魂、まだ“道の途中”にいるイヒヒ……
あいつ、まだ死を受け入れてない」
アイゼンハワードは立ち止まり、拳を強く握る。
「……なら、会いに行く。
真実を、俺が暴く」
その背後で、砂の下に消えた仮面の影が、不気味に笑っていた。




