第2話 魔界の門
「蛇の道は蛇っていうよね~♥」
イーリス族のギャル・ライラは、くるりと髪をかきあげてウィンクした。
「魔界に入るなら正面からではダメ。税関も魔獣もキツすぎるし。…でもウチにはとっておきの“コネ”があるの♡」
彼女が頼ったのは、かつての元カレ。
魔界の関所に勤める悪魔 、名をザベル。
「ちょっとチャラいけどね、昔はそれなりに信用してたし…たぶん、今でもウチに惚れてるから大丈夫♪」
俺たちは期待半分、不安半分で魔界の門へ向かった。
魔界の空は、血のように赤黒く渦を巻いていた。
巨大な“魔界の門”が、地鳴りのような音を立てて開かれる。
「マジで~?ライラって元カレが魔界の門の管理人なんだって?」
「そゆこと~♡ ウチ、裏ルート知ってるからさ~、魔界の税関とか余裕だよん♪」
……ってドヤ顔で言ってたのに、
「はいはいストーップ!お姉さんたち、全員身ぐるみ検査入りますよ~」
がっつり悪魔税関に止められた。
「この剣、明らかに武器じゃん」
「違うってば!これはお土産!しかも斬れない!――ほら、リスクくん、じっとしてて」
ブンッ!!!
「って、ライラああああああ!!!当たったら俺は死ぬんだよ!?」
「あは~ごめんごめん☆ ウチ、力加減できないタイプ~♡」
ザッ…ザッ…ザッ…
そこに現れたのは、黒衣を纏い赤い瞳を光らせた悪魔、ザベル。(顔はネズミ男 髪はロン毛)ライラの元カレだった。
「……ライラ、久しぶりだな」
「ザベちん♡! 来てくれたんだ~ウチ感激~!」
「はぁ……」ザベルは軽くため息をついた。
「……お前、相変わらずノリ軽いな」
「だってぇ♡ マーリンは昔の悪友だし、今はリスクってヤツと旅してるし?困ってる仲間は助けなきゃって思ってさ!」
「……俺は、お前の“頼み”を通すために色々苦労したぜ。」
「でしょ?ザべちんやっぱ頼りになる」
その言葉に、ザベルは一瞬だけ口を噤んだ。
そして
「ここを通す約束だったな」
「ウチら、マーリン助けたくてやってんの。な?ザベちん!」
「…………」
ザベルは静かに目を閉じた。
そして、重々しく口を開いた。
「……俺は、今でもお前を信じていた。だから…だからこそ、最後に言っておく」
「最後……?」
「お前は、とっくに詰んでいたんだよ。」
その瞬間、ライラの顔から血の気が引いた。
「…………来るぞ」
重々しい気配と共に、悪魔王ガイアスがゆっくりと姿を現す。
その佇まいはまるで地獄の支配者そのもの。
声を発さずとも、全身から殺気がにじみ出ていた。
「ふむ……茶番は終わったか」
ライラがすぐさま前に出る。
「ガイアス様!ねぇ、ちゃんと約束したよね!?マーリンだけは―」
「……ああ、“マーリンは殺さない”約束、だったか」
ガイアスはゆっくりとライラの方を向き、
唇の端をつり上げて笑った。
「あんなものは方便だ。愚か者よ」
「……え?」
「交渉材料に使っただけだ。始めから守るつもりなど無い」
「ザベちん!?話が違うじゃん!」
ザベルは拳を握りしめ、怒気を込めて前に出た。
「ガイアス様、それは……! 約束が違う!!」
「……ほう。誰に向かって口を利いているのだ?」
次の瞬間、**“ズバッ!”**という音と共に、ガイアスの腕がザベルの胸を貫いた。
「――っ!!?」
悪魔ザベルは目を見開いたまま、言葉を発することもできず
そのまま、崩れ落ちた。
「ざ……ザベちん……ざべちん!? うそでしょ、なんで、なんでよぉぉぉぉおおおおお!!」
ライラが叫ぶ。膝から崩れ落ち、泣き叫ぶ。
「裏切り者は、誰であろうと同じだ」
悪魔王ガイアスは血のついた腕を冷たく振り払い、
俺たちを見下ろした。
「次は……貴様らの番だ、勇者たち」
「チッ……ふざけんなよ……!」
勇者アルベルトは剣を抜いた。
マーリンは静かにライラに寄り添い、何も言わず構えていた。
シスターマリアはザベルを治療している。
村人リスクはイージスの弓を道具を道具袋から取り出した。
今、魔界の門で血で血が染まる四天王との最後の闘いが始まろうとしていた。