第四話 追跡の果て砂漠都市での駆け引き
南国を抜けた先に広がる、黄金色の砂漠。
その中央にぽつんと浮かぶように建つ、巨大都市
砂漠市場都市バザレオン。
そこは、あらゆる違法取引が行われる闇の市場でもあった。
アイゼンハワード一行は、仮面の使いの情報を求めて都市に潜入したが
敵の刺客はすでに彼らの動きを追っていた。
砂の道で始まるチェイス
「先生、後ろっ! 来るわよ!」
ルアーナの声と同時、砂塵を割って馬車が突っ込んでくる。
黒い仮面の刺客が二人、砂煙の中で刃を光らせた。
リュカはすぐに状況を把握し、
「こっちの路地、狭いけど抜け道です!」
アイゼンハワードは杖を突きながら走る。
「昔はもっと走れたんだがな……っ、くそ、歳は取りたくない!」
レイヴが横で浮かびながらケラケラ笑う。
「でも走ってるじゃない。おじいちゃん、まだまだ行けるねイヒヒヒ!」
「黙れ死神!!」
砂漠都市の路地は迷路のように入り組んでいる。
追手の足音が響くたび、緊張が高まる。
ルアーナが腰のポーチを探り、
「ふふっ……こういう時のために仕込んでおいたのよ!」
取り出したのは、小瓶に入った青い液体。
「な、なんだそれ……?」
アイゼンが眉をひそめる。
「蒸気爆薬! まくわよ!」
地面に叩きつけられた瓶から蒸気が噴き上がる。
刺客たちは視界を奪われ、立ち止まった。
「……発想が物騒だな、ルアーナ」
「あなたの弟子なんだから、これくらい当然よ!」
バザレオン中心部、“砂の宮殿”の影を通り抜けると
空気が、変わった。
「……っ!」
突然、足元の砂が陥没し始める。
リュカが叫ぶ。
「先生、罠です! 踏んでいませんか!?」
アイゼンハワードは咄嗟に跳んだが、
老人の身体では間に合わない。
砂の下には鋭い刃が仕込まれていた。
その瞬間
死神が横から飛び込み、アイゼンの腕を引っ張った。
「危ないよおじいちゃん……こんなんで死んだらローレムに笑われるよイヒヒヒ!」
「……助かった。礼を言う」
死神は珍しく真面目に笑う。
「ローレムの魂が言ってるんだよ……“まだ終わってない”ってねイヒヒヒ」
アイゼンの瞳に、哀しみが揺れた。
◇◇◇
過去回想 ― ローレムの言葉
ふと、砂漠の風が過去を呼び起こす。
燃えるような戦場。
背中を預け合い、魔法の嵐の中で笑った少年の日々。
『アイゼン、お前だけは俺を信じてくれた。
人間も魔族も関係ないって……そう言ったのは、お前だけだ』
そして、
あの女性フィリアを巡って殴り合った夜。
『俺はお前のことが好きだった。
だから、お前が彼女を選んでも……俺は友でいたい』
そのローレムが
最後に握っていた暗号“旅路の鍵”。
なぜだ……
なぜ、お前は死なねばならなかった?
胸が締め付けられる。
死神が声を落とす。
「イヒヒ……また来たよ。今度は三人。殺気が濃いね」
ルアーナが蒸気爆薬を構える。
「準備できてる!」
リュカは短剣を抜き、背中を守るように立つ。
「アイゼンさん、こっちは大丈夫です」
アイゼンハワードは深く息を吸い、杖を握りしめる。
「……ローレムのためにも、ここで引くわけにはいかん」
砂煙を上げ、黒い仮面の刺客たちが迫ってくる。
戦いが始まろうとするその瞬間
アイゼンハワードの瞳に、復讐の炎がはっきりと宿った。
「行くぞ。ローレムの死の真相に、近づくため!」
風が砂を巻き上げ、4人の影が砂漠都市に伸びていった。




