第二話 暗号の断片、 墓標インシグニア
南国の街角。
墓標の暗号を前に、ルアーナは眉間に皺を寄せる。
「この文字列……ただの装飾じゃないわ。古代魔族文字と、微妙に人間の古代文字が混ざってる……」
リュカが静かに資料を整理する。
「なるほど、パターンが分かれば、意味が見えてくるかも」
シグルは手を腰に当て、薄暗い墓地を見回す。
「……何かいるな。死の気配が、墓標の周りを漂ってる」
アイゼンハワードは拳を握り、声を震わせる。
「ローレム……お前のメッセージ、俺たちが必ず読む」
ルアーナが紙に書き出す文字列を指差し、つぶやく。
「これは……ローレムの生前メッセージね。彼、最後に僕たちに伝えたかったこと……」
その瞬間、アイゼンハワードの脳裏に、過去の記憶が蘇る。
戦争の戦場、魔族として人間と戦った日々。
そして、ローレムと交わした友情、そして…彼女との三角関係。
■過去の回想
荒れ果てた都市。炎に包まれる街、煙と硝煙の匂い。
人間の兵士と魔族の戦士が入り乱れ、剣と魔法が交差する。
若き日のアイゼンハワードは、魔導捜査官として前線に立ち、命を懸けて仲間を守った。
その隣に、ローレム誇り高き魔族の戦士がいた。
「おい、アイゼン。後ろ、任せたぞ」
冷静に指示を出すローレム。互いに信頼し合い、戦場の混乱の中で何度も助け合った。
戦場の休息の夜、二人は焚き火を囲み、互いの過去や未来について語り合った。
「俺たち、いつか戦わなくても済む日が来るのか?」
「分からん。でも、今は…お前と一緒に戦うしかない」
微笑みを交わすだけで、言葉以上の絆を確かめ合った。
そして、もう一人女性。人間側の協力者であり、アイゼンの淡い想いを抱く存在。
戦場での負傷を癒し、時に戦略を助言するその少女に、アイゼンもローレムも心を寄せていた。
火の粉が降る夜、ローレムがつぶやく。
「……彼女は、お前が守るべきだ」
アイゼンは胸の奥で苦悩する。友情か、恋か、戦場の中で揺れ動く感情。
ローレムもまた、自分の想いを抑え、アイゼンに笑顔を向ける。
二人の友情と恋心が、微妙なバランスで共存していたあの頃。
現実に戻るアイゼンハワード。
ルアーナが慎重に紋章を指でなぞる。
「これは……古代文字に魔力が絡んでいる。順番通りに読めば、生前のメッセージになっているはず」
リュカが小声で補助する。
「僕も手伝う……慎重に」
その横で死神は、墓標に片手を置き、悪戯っぽく笑う。
「フフフ……なんだかワクワクするじゃないかイヒヒヒ。誰がこんなに面倒くさい暗号を残すかなイヒヒヒ」
アイゼンハワードが少し眉をひそめる。
「お前……今、ふざけてるだろ」
レイヴは肩をすくめ、にやりと笑う。
「いやいや、僕は真剣だよイヒヒヒ。死の気配も嗅ぎ分けてるし、罠も察知してるんだからイヒヒヒ」
墓標の紋章を解析するルアーナの手元で、魔力の光がほのかに揺れる。
「これ……部分的に座標とメッセージが混ざっている。どうやらローレムの居場所と、誰に託したいかの暗号のようね」
リュカが眉を寄せる。
「……あの、アイゼンさん、彼は誰かに伝えたかったんだね」
アイゼンハワードは拳を握りしめ、静かに答える。
「うむ……俺が見つけなければならない。ローレムが残した旅路の鍵、そして……犯人も」
レイヴは墓標の周囲をくるくる歩き、声を落として囁く。
「罠があるかもしれない……でも大丈夫、僕が守るからイヒヒヒ。おじいちゃんも安心して、しっかり怒りを燃やすんだイヒヒヒ」
アイゼンハワードは小さく息をつき、暗号を凝視する。
「怒りだけでは進めぬ。冷静に、確実に……まずは断片を一つずつ解く」
墓標の暗号は、ただの文字ではなく、ローレムの生前の言葉。
友情、愛、そして復讐の手掛かり――
四人は沈黙の中、光に照らされる古代文字に向き合う。
死神が小声で呟く。
「フフフ……この旅、なかなか面白くなりそうだねイヒヒヒ」
しかしその眼差しの奥には、仲間を守る覚悟が確かに宿っていた。




