エピローグ 卒業式、心の再生、未来への旅立ち
卒業式
体育館に、春の日差し。
壇上には、かつて“問題児”と呼ばれたONI組。
いまは誰よりも誇らしげに、胸を張って立っている。
最後の呼名が終わり、
司会が「以上をもちまして…」と言いかけたその時。
レンジが突然、マイクをつかんだ。
「ちょ、最後にひと言だけ…いいすか」
会場ざわつく。
教頭が「やめなさい!」と止めようとするが、
レンジが笑って言う。
「俺もう、暴れたりしません。今日はまっすぐ言うだけっす」
そして、さっちゃん先生を見た。
「先生…
俺たち、ずっと“怒られて当然”の存在だと思ってた。
でも先生はさ、
“怒る前に理由を聞く大人”だった。」
レンジの声が震える。
「それだけで、生きてていいんだって思えたんだ」
さっちゃんも、目頭を押さえる。
アヤメも前に出た。
「先生が…初めて、私の“鎧の下”を見てくれた。
怒らないで、笑ってくれて…
“強い子ほど、弱さも持ってる”って言ってくれた時、
私、やっと人間に戻れた気がした。」
ほんのり笑いながら、
「…あと、先生の前だけ泣きすぎました。返してください、私のクールキャラ」
会場がクスッと笑う。
カケルが手を挙げる。
「先生〜……
俺、ずっと“空気読んで笑わせる係”だったんですよ。
本当は、誰かに笑わせてほしかったのに。」
涙声のままニヤリとする。
「でも、先生が俺のふざけに毎回“的確にツッコんで”くれたから、
ああ…俺って『いていいんだ』って思えまして。」
軽い笑いが起こるが、
目は誰よりも真剣だった。
ミナト
「先生…
俺、フォロワーの数字ばっか追いかけてたけど…
“1”って数字が一番大事って気づいた。」
さっちゃん「1?」
ミナト「“1人の大人が、本気で向き合ってくれた”ってことです。」
体育館が静まり返る。
誰かすすり泣きが聞こえる。
ユラは震えながらマイクを握った。
「…先生、覚えてますか。
私、最初の自己紹介で『特になにもないです』って言ったこと。」
さっちゃん「覚えてるよ」
「先生が言ったんです。
“あなたが今ここにいること、それ自体がすごいことですよ”って。
あの言葉は…
私が生きてきた中で、いちばん温かかったです。」
ユラの涙が制服の胸元に落ちる。
レンジが後ろを振り返り、
仲間たちを見る。
「なあ、お前ら。言うぞ」
ONI組全員が声をそろえる。
「「「先生――俺たちはもう、“救われたよ”。
ありがとう。」:::
さっちゃん先生は、堪えきれなかった。
涙をこぼしながら、生徒たちを見つめ、
「……こんなにも、人は変われるんだね」
「変われるよ!」
「先生がいたからだよ!」
「ONI組は一生、さっちゃん先生の生徒です!」
全員が泣き笑いになりながら抱き合う。
シャッター音。
最後のクラス写真。
泣いて、笑って、ツッコんで。
まるで“家族写真”のような1枚。
教室の前。
卒業証書を抱え、ONI組が並んでいる。
レンジ
「ここ、もう俺らの“地獄”じゃないな」
アヤメ
「うん、“帰る場所”だったんだね」
カケル
「また来るわ!職員室でコーヒー飲むわ!」
さっちゃん
「勝手に入らないで」
笑い声が弾ける。
そして
光の差す廊下へ、一歩ずつ踏み出していく。
ナレーション
「不良なんて、どこにもいない。
ただ、まだ誰にも“抱きしめられていない”子どもたちがいるだけだ。
そして、救える大人は必ずどこかにいる。
3年ONI組
これにて、卒業。」
『3年ONI組 さっちゃん先生7 心の授業だ人間再教育』
ー完ー




